「私達は望む望まざるを問わずつながってしまう生き物」現代芸術家・大小島真木さんが再解釈した“アマビエ”とは
“天岩戸”のような角川武蔵野ミュージアムからイメージを膨らませた
作品の構想段階で訪れた際、大小島さんは角川武蔵野ミュージアムを岩戸隠れ伝説の舞台である「『天岩戸』みたいだと思った」と語る。
岩戸隠れは太陽神・天照大御神(アマテラスオオミカミ)が天岩戸に閉じこもったことで世界が闇に包まれてしまうという記紀神話。太陽を失い、困り果てた神々は一計を案じ、天岩戸の前で宴会を開いて大いに騒ぐ。あまりの騒がしさに、不審に思った天照大御神が少しだけ戸を開けて外の様子を伺うと、待ち構えていた力自慢の神様に手を引かれて引きずり出されてしまい、世界に光が取り戻されるというものだ。
窓もなく、閉じられた空間のようでありつつも人が出入りしている角川武蔵野ミュージアムから大小島さんが連想したという岩戸隠れ伝説。「外部を遮断しようとしても、綻びが生じてしまう」というこの物語は、コロナ禍での我々のあり方とも結びつく。
「コロナ禍で私達は国と国、人と人、それぞれの距離を考え直し、再構成してきました。これまでの私達は対面でコミュニケーションを取ることを大事にしていた生き物だったように思いますが、それが一転して罪とされるようになった。
けれど、どんなに閉じてもウイルスは結局入ってきてしまいます。また、対面で会えない状況でZoomでのオンライン飲みが流行するなど、人は他者とどうにかしてコミュニケーションを取ろうとしていました。
私達は望む望まざるを問わずつながってしまう生き物であり、完全に閉ざすことはできない。それを『綻び』として表現しようと思いました」
そんな思いから大小島さんが制作したのが「綻びの螺旋」だった。同作は3点の絵画と再生リネン布でできた立体物、そしてこれらの作品をつなぐ黒い“道”で構成される、大型のインスタレーション作品。ミュージアム2Fの壁面だけでなく、床面も、そして屋外までをも縦横無尽に用いた大作だ。
ミュージアム入口には「異界への入り口」をイメージし、底面に翼のようにも見える人の手の集合体の絵が配置されている。
「『綻びの螺旋』は外へと出ているし中へも誘っている。外と中を行き交うようなイメージです」