その3:赤ちゃんが生まれた時の表情
第16回。赤ちゃん誕生。横に寝ている赤ちゃんの指に、指でそっと触れる仕草と赤ちゃんを見つめる表情が慈愛に満ちあふれていた。
「赤ちゃんがどのシーンでもあれだけいい表情をするのは、上白石さんが自分の子のように接しているからだと思います」とこれも演出の安達の言葉。とにかく上白石は演出家をうならせてばかりなのだ。
その後、赤ちゃんを抱いて、軽く背中をたたいたり、ゆすったりする仕草も安心感がある。休憩中もずっと赤ちゃんと一緒に過ごした賜物であろう。
赤ちゃんに子守唄のようにウィスパーで歌う「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」も歌手でもある上白石だからこその心に響くものだった。
その4:千吉への気配り
第14回・たちばなへおはぎを買いに来た千吉(段田安則)が気落ちして見えたので、お汁粉を差し出す安子。戦時中でおはぎがないのでその代わりに。
この時「早ようお元気になってくださいね」と言う安子の控えめな口調と笑顔の塩梅がいい。
これこそ千吉が安子と稔の結婚を許す気になる第一歩になる。古き良き礼儀正しい人物を、これほど的確に表現できることがすばらしい。
その5:列車の中で泣く
第8回。政略結婚をさせられそうになった安子は稔に会いに行き、ひとときふたりで過ごした後、何も告げずに帰る。
でも、ひとり列車の中で稔が着せてくれたマントにくるまれながら泣いてしまう。必死で稔への想いを諦めようとする健気さが胸を打つ。
主題歌「アルデバラン」が流れ、名場面だった。
その6:自転車で追いかける
第5回。大好きな稔が大阪に戻ってしまう日、彼に習った自転車で猛然と駅まで追いかけて、「メイ アイ ライト ア レター トゥー ユー」と英語で尋ねる安子。「オフコース」と応える稔。
上白石主演の民放の恋愛ドラマが好評だった理由がわかるような、心の奥底から目の前の人を愛する感情を表現しているからこそ、見る者の心も動く。英語のたどたどしさがまた絶妙なのだ。
その7:裸足で駆ける
第2回。初登場、2階から裸足で階段を駆け下り、廊下を抜けて菓子の工場へ向かう風のような軽やかさ。じつに爽やかだった。
上白石萌音は話し方や表情はおっとりしているけれど、すばしっこさがあってクレバーな人なんだろうなあと思う。
わずか4週間でベストアクトがこんなにもある。ほんとうはまだまだ挙げたい場面があるがキリがないので7つに留める。
これだけ見応えのある演技を見てしまうと、半年を三人のヒロインでリレーする(つまりひとりだいたい2カ月ずつだろう)ことが短すぎる気がして惜しい。短いからこそ濃密なのかもしれないけれど。
いずれにしても第5週からは安子がいよいよカムカム英語講座に出会う。上白石萌音がどんな表情を見せてくれるか期待している。
NHK出版
発売日: 2021/10/25