【テレビの開拓者たち / 遊川和彦】「ドラマは脚本が一番大事。“逃げ恥”にはやられた」
まず「何のために作るのか」「何を伝えたいのか」が大事
――現在は、連続ドラマの平均視聴率が下がり、“ドラマ冬の時代”と言われています。その原因をどうお考えになっていますか?
だって、作り手が視聴者に背を向けて、上層部や芸能事務所の顔色ばかりうかがっているんだもの。それで「さぁ、ドラマを作りました」と言ったって数字は出ないですよ。身内である業界の方ばかり向いているんだから。逆に、視聴者の方を向き、上から言われて背後からバシバシ叩かれても、「うるさい。伝えたいことがあるからこれをやるんだ」と抵抗できる人こそが良いドラマを作れる。今のテレビ局員はエリートばかりで、失敗をしたがらないものだけれど、まず「何のために作るのか」、「何を伝えたいのか」ということが大事なんだって分かってほしいですね。
――そんな遊川さんから見て、伝えたいことを伝えようという心意気を感じるドラマはありますか?
'16年10月クールの「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)。あれは誰もが面白いって言うじゃないですか。正直、やられた感がありました。今の人間関係をリアルに描いていましたよね。今の人って、誰に対しても失礼がないようにはするけれど、自分のこととなると「これ以上入ってくるな」という感じになるじゃないですか。主人公のふたりが微妙に少しずつ近づいていくのが、うまかったですね。だから、見る人はみんな、自分の物語だと思って感情移入できる。あのTBSのチームは、その前に「重版出来!」を作って、あれも面白かったですね。「重版出来!」は視聴率が高くなかったけれど、見ている人には一生懸命作っていることが分かってもらえたから、次も見てもらえる。だから、新しい挑戰をしていったん数字悪いからってめげて、また視聴者にケツ向けて作ったらダメなんですよ。
――「逃げるは恥だが役に立つ」は、野木亜希子さんの脚本・脚色も高く評価されました。
やっぱり脚本が大事なんですよ。ドラマを作る人には、それを分かってほしいんだけど、なかなか分かってもらえない。脚本よりキャスティングのほうが大事だと思っている人が多いんです。でも、主役がどんなにスターでも、脚本が悪かったら視聴率は落ちますよ。逆に、どんなにキャストが地味でも、脚本が素晴らしく面白かったら、数字はそこから下がることはない。そして、「逃げ恥」のように次につながっていく。どっちが投資として正しいですかって、テレビ局の人に、特に社長に訴えたいですね。
取材・文=小田慶子
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