「取材をしていただきながらこんなことを言うと、元も子もないかもしれませんが…」と斎藤工は切り出した。続けて「制作陣や演者の意図を言葉で補う作品ではないのかな、と思っています」と。Netflixで配信がスタートしたドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」で、斎藤はある日突然妊娠した桧山健太郎を演じている。ダイバーシティ(多様性)やジェンダーバイアス・無意識の偏見、さらには職場の無理解…作中には近年社会問題となっているさまざまなテーマが潜んでいるが、その描き方はあくまで軽やか。それでいて、どんな人でもどこかが“刺さる”リアリティーを持って、“シスジェンダー男性の妊娠”というフィクションが描かれている。「見ていただいた方のリアクションがこの作品の全て」と語る斎藤に、それでもこの作品が持つ意義や価値、そして誰もが直面しうる“分かってもらえない”状況の対処法を聞いてみた。
ポップな作品は、見ている人が「あれ?」と気になる瞬間を多く生み出せる
――ジェンダーバイアスや家族の在り方など、作中にはさまざまな社会問題が含まれています。社会性のあるテーマをエンタメ作品として描くことには、どのような意義があると思いますか?
斎藤:ドキュメンタリーのように社会性を強調して描くやり方も在り得たと思いますが、僕は“正座して見るもの”は意外と残っていかない気がしていまして…。学校で見せられたビデオなんかも、点では残っていても線では残っていないという感じがあるんですよね。なので「ヒヤマケンタロウの妊娠」も現代的なテーマを採っていながら、社会性の強度は軽減されています。そのリアリティーと軽やかさのバランスは、監督お二方とも話し合って調整しました。
気軽でポップなエンタメ作品の中には、見ている方がご自身の環境にそのままトレースできるようなものがどこかにある。(作品の)点と(自身の)点が合っちゃう、という瞬間を作り出せるのは、こういった軽やかな作品ならではなのかなと思いました。
――作品を拝見して、確かにどんな立場の人も「あるある」と思える瞬間が散りばめられているように感じました。
斎藤:「ここをこう見てほしい」という演出もなくはないですが、しっとりした作風だと皆さんの見方までコントロールしてしまいます。ですが気軽な作風だと、見た方それぞれの気になる瞬間にも個人差があって、その「あれ?」と引っ掛かる瞬間を多く生み出せる。見飽きませんしね。「もう少しこのシーンが長かったら…」というところを手前で次のシーンに転換していくところも、この作品の秀逸なところだと思います。連続ドラマは、全話見ていただいて初めて僕らの思いが成就するもの。最後まで渇望するものがあり、次の話へと連鎖していく構成も、制作陣が作為的に作ってくださいました。
■Netflixシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」
Netflixにて全世界独占配信中
原作=坂井恵理『ヒヤマケンタロウの妊娠』(講談社「BE LOVE KC」所載)/監督=箱田優子、菊地健雄/脚本=山田能龍、岨手由貴子、天野千尋/企画・制作=テレビ東京
出演=斎藤工、上野樹里ほか