「このシーン、吐いたらNGになりますか?」
――やはり大変だったのですね。実際に撮影での苦労はいかがだったでしょうか?暴力を受けるシーンだけでなく、初めてラップの舞台に引きずりだされるシーンも見ているだけで痛々しかったです。挑発されて失禁してえずいて、という。
そういえば、今思い出したんですが、あのシーンはリハーサルに時間をかけて長丁場だったので、カロリーを入れておこうと差し入れのカレーパンを食べたんですよ。そして、リハーサルをやっていたんですが、かなり追い詰められるシーンだったので「あ、これ本番で吐くな。カレーパンもどすよな」ってなって(笑)。監督に「このシーン、吐いたらNGになりますか?」って聞いたら、「全然いいよ!」って言ってもらえて。安心して本番に臨めました。
――えぇ!じゃあ、あのシーンは本当に吐いてしまったんですか!?
はい。まあ、本番ではもう胃に物が残ってなかったから、そんなにヒドい画づらにはなりませんでしたけど。
――それは…想像以上に凄まじいご苦労をされたんですね。
そんな確認をしたのは今回が初めてですね(笑)。吐くのがNGなら堪えないといけないけど、OKなら良かった、吐けるって安心しました。まっとうな思考回路ではなかったですね。
――すごい体験ですね。こういうと上から目線に感じられたら申し訳ないですが、この作品の稲葉さんを拝見して役者として一皮剥けたなと感じました。
僕にとってもそういう心境の作品になりました。劇的に何かが変わったというわけではないんですが、挑むことに意義があるということを教えてもらいました。
――この作品を経て今後やってみたい役や展望を教えてください。
両親とも教員なので以前から学校の先生役をやってみたいと思っていて、今回の仁役は一応教員ですが、思っていたのとは違いました(笑)。そうだな、よく言われる猟奇的な殺人鬼とか悪役をやってみたいと思ったことはないですね。今、時代は多様化していて役柄も多様化していると思います。どんな役が来てもやってみたいし、そのためにどこにでも踏み出せる軸足を作っておきたい。そんな風にしながらこの仕事を続けていきたいと思ってます。
――最後にこの作品をこれから見る方にメッセージをお願いします。
手軽に見やすい動画がある時代に真逆を行く質量の作品でしょうけど、だからこそ今公開されることに意味があると思います。見た方の背中を押すというより、見た方のご自身の中から前に踏み出す力が湧いてくる作品ではないかと。ぜひ映画館で見て欲しいです。
取材・文/牧島史佳
5月27日(金)、渋谷シネクイント ほか 全国順次公開
(C)2021「恋い焦れ歌え」製作委員会
配給:フューチャーコミックス