「劇団四季が作品を通して伝えたいメッセージにも繋がると思います」
――ミュージカル版では、猪王山の長男、一郎彦を大きく膨らませることで、蓮との対比や、父と子の絆というテーマがより鮮明になっています。
一郎彦は、成長するにつれて自分に失望し、悲しみや疑いが心の中で降り積もって、最後に闇に呑み込まれていきます。でも、蓮と一郎彦は裏表で、ふたりを書いているようで、実はひとりなんですね。“バケモノの子”は蓮だけではないんです。だからふたりは向い合わなくてはいけないし、戦うしかなかったという必然性に持って行けるように、1幕から伏線を張っています。私が書いたミュージカルは“バケモノの子たち”なんです。私は、闇も含めて人間であり、その闇を抱えてもがきながら生きて行くのが人生なのだと思っています。闇があるからダメではなくて、闇に負けてもいい、それでも生きていけばきっと美しい風景が見えてくるという考えは、劇団四季が作品を通して伝えたいメッセージにも繋がると思います。
――稽古場の様子はいかがでしたか?
演出の青木豪さんとは、私が大切に思っていること、青木さんが表現したいことをお互い理解し合った上で稽古場に入りましたし、原作と骨格は変わっていないので、最初に狙ったコンセプトからまったく揺らがずにきたと思います。私は、最初の本読みから、だいたいの流れを作るところまで稽古場に入っていて、あとはお任せしていたのですが、俳優たちも自ら工夫したり、考えたりして、稽古場に「みんなで創る」という一体感がありました。歌詞が稽古中に何度も変わったり、曲の長さが伸びたり縮んだりして、そのたびに覚えて歌うのは大変だったと思いますが、キャスト全員、本当に頑張ってくれました。新作に挑戦し、作品の誕生から参加する喜びはそれほど大きいのだと思います。ある俳優さんが、「稽古をやればやるほど、この作品が好きになっていくんです」と言ってくれて、それはとても嬉しかったですね。
取材・文=原田順子
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