長年「若者のテレビ離れ」が言われ続ける一方で、最近ではTVerなど見逃し視聴が一般的になり、テレビ番組の話題がSNSでバズることもしばしば。テレビって、あらためてじっくり見たら色々おもしろい?なんと7年ぶりにテレビ番組を見るというライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は「有吉ゼミ」(毎週月曜夜7:00-8:00、日本テレビ系)をチョイス。
”良い家の良さ”に殺される
昔から、金のかかるようなものには、一切興味がない。例えば高級レストランでたった一度の食事に数千円、下手すれば数万円、さぞ美味いのであろうが、どう考えたってラーメンのほうが美味いのだから、わざわざテーブルマナーなんてものを気にしながらフォークとナイフをカチャカチャやる必要などない。財布や腕時計、衣類に関してもそうだ。何だよ財布って、高いから何なんだよ、ふざけるな、という強い一心で、無印良品の小物入れを財布として使い続けている。
しかし、家だけは別だ。その他のすべてに興味がない分、家には異常な興味がある。総部屋数が3部屋しかない実家で育ったからか、”良い家”というものに強い憧れと、嫉妬が渦巻いているのだ。自分にはとうてい無理だという卑屈さから、逃れることができない。高いから良い、広いから良い、といった単純なものではなく、そこに立地や、外観や、構造や、インテリアなどが大いに関わって、それらを総合した結果に生まれる”良い家の良さ”というのは、槍となって私の心臓を貫き、殺す。私は、家に殺されている。
ツイッターやインスタグラムなんかで、よく”良い部屋”の写真がバズっているのを見かける。6畳のアパートでも、工夫次第でこんなにも素敵な空間に。とか何とか、私はそういう写真を見るたびに死んでいる。人を殺しているという意識を持っていただきたい。私はそういった投稿を見かけるたび、虫が写り込んでいないかくまなくチェックする。が、あるのは虫ではなく、洒落た花瓶と、洒落た絵なのだ。それで死ぬ。何度も言うが、あなた方は私を殺している。
そんな折、久しぶりに殺されてみるか、と思い、人気番組『有吉ゼミ』のワンコーナー、『坂上不動産』を視聴してみた。みやぞんが、母親に買ってあげる別荘を探しに物件の内見に行くという内容で、「こういうのはどうせ、趣味の悪いテカテカの家に行くのだろう」と余裕をこいていたところ、軽井沢の木々に囲まれたログハウスが画面に登場し、殺されてしまった。死んだのでよく覚えていないが、6SLDKの居住スペースに、5組くらい同時にデスゲームをやれそうなバカ広い地下、そして数年前まで実際に営業されていた喫茶店のスペースがそのまま残っている。24帖のウッドデッキも広々している。画面にレッド吉田が映っているのが唯一の救いである。
家の紹介がひととおり終わったあと、値段が発表される。2億7000万円。2億7000万という数字は、「安心してください、あなたには関係ありませんよ」というたしなめに他ならない。何だ、2億7000万って…。何だよ、2億7000万ってのはよ…。俺だって生きてるんだぞ…冗談じゃねえよ….。
そんなことを思いながら次に登場した物件にはまったく心惹かれず、無事殺されずに済み、そのあとカナメストーンの自宅が登場して、汚い畳や台所なんかが映っていて、全回復した。押し入れの中でプレステが腐っていたのがめちゃくちゃ面白かった。というか、2億7000万円のログハウスのあとに腐ったプレステが映る番組って、一体どういうことなんだろうか。
文/城戸
イラスト/犬のかがやき