コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、実体験をもとにした『こどもが産まれて自分がちょっと変わった話』をピックアップ。本作を描いたのは、普段は指圧師、漫画制作、ライターという三足のわらじを履き、講談社の漫画賞でコミックエッセイ部門賞を受賞という異色の経歴を持つ斎藤充博さん。自身のTwitterに本作を投稿するやいなや4万件以上のいいねが集まり、「うちの子の時を思い出しました」「素敵なパパ」「泣いてしまいました」など、共感や感動の声が数多く寄せられた。この記事では、作者の斎藤さんにインタビューを行い、今作を描いたきっかけや、背景について語ってもらった。
おれは一生「のんちゃんのパパ」として生きていく
男性は、いつ “パパ”になるのか？ 女性の場合は妊娠・出産という“ママ”になるための身体の変化や過程がしっかりと設けられているが、男性には分かりやすい変化が無い分、個人差が大きいのではないだろうか。今回紹介する『こどもが産まれて自分がちょっと変わった話』には、作者の斎藤充博さんが父親としての自覚を持つまでの過程が事細かに描かれている。
出産予定日の２日前、入院が予定より早まり「産めない〜こわい〜」と怯えていたのに、出産予定日になると打って変わって力強い足取りで病院へと向かう妻。夫はそんな妻の変化に戸惑いつつも、後ろ姿を見送った。夫が1人自宅で待機していると、すぐに “帝王切開での出産になりました”という医師からの連絡が入り、急いで病院に向かうことに。「大変なことになった」と頭では分かっているつもりだが、実のところ“帝王切開”が具体的にどう大変なのか、その時点では深く理解できずにいた。
病院に到着すると、そのまま何もない待合室に通される。不安な気持ちや焦りを感じる中、ついに待ちに待った我が子と対面の時がやってきた。看護師に抱かれた我が子は、なんだか想像していたよりも元気がないように見える。さらに担当医師から「分娩中に赤ちゃんの心音が止まって蘇生した」と聞かされ、ますます不安になった。出産を終えた妻も、朝の面影が無いほどにやつれきっている。「本当に大丈夫なのか？」衝撃的な光景の連続に不安な気持ちは増す一方だが、皆は口を揃えて「大丈夫」と言う。しかし、何が大丈夫なのか夫にはよく分からない。自宅に1人戻った後も、病院での出来事を思い出しては悶々としていた。
すると、病院にいる妻から赤ちゃんの動画が送られてきた。小鳥のような声で泣く我が子を見て「これは…ぎゃわいい」と衝撃が走る。その瞬間にボンッと頭の中で何かがはじけ、それまでの不安は消し飛び、自分のアイデンティティーに急激な変化が訪れたのを感じた。これまで生きてきた“斎藤充博”という存在は消滅し、これからは “のんちゃんのパパ”として、子を守るマシーンになって生きていく。「おれの人生最高じゃないか…」それが初めて、父親としての意識が芽吹いた瞬間だった。
妊娠・出産というのは子を望む夫婦にとって一大イベントだが、身体に特別な変化がない男性にとっては、どこか“蚊帳の外”感があるのは否めない。それは、本作の淡々とした語り口からも感じ取れるところだ。特に近年はコロナ禍のため立ち会い出産ができなくなり、本当の意味で“パパ”になることを理解できないまま、子育てのフェーズに入ってしまう男性も多いことだろう。
そんな社会的背景がある中で、こういった男性側の出産体験談というのは意外と少なく、世の中の“新米パパ”たちにとって貴重なヒントになり得るのではないだろうか。そこで今回、今作を描いたきっかけや、変化を感じた瞬間の想いなどについて話を伺った。
