コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、「くらげバンチ」(新潮社)にて『神と呼ばれたオタク』を連載中の漫画原作者・Rootportさんが、話題のイラスト生成AI「Midjourney」を使って創作した作品『サイバーパンク桃太郎』をピックアップ。誰もが知る昔話「桃太郎」をSF作品に昇華させた独特な世界観と、AIが生成する美麗なイラストに注目が集まり、2022年8月10日にTwitterで公開されて以降、8月17日現在までに6万ものいいねが寄せられている。この記事では、作者のRootportさんにインタビューを行い、実験的な漫画制作を始めたきっかけやAIによる画像生成の難しさ、今後の展望について語ってもらった。
漫画原作者דお絵描きAI”が生み出す実験的作品に期待の声が続々
まず、「Midjourney」とは、生成したい画像の内容を英語で指示すると、それに合わせたイラストを自動生成してくれるというアメリカ発の“お絵描きAI”だ。今年8月頃から「#Midjourney」のハッシュタグと共に自身の作品を投稿する人が急速に増え、そのクオリティの高さから「神絵が1分で生成される」と話題になっている。
そんな最新AIの可能性に着目し、AIを使った漫画制作に挑戦しているのがプロの作家であり、漫画原作者でもあるRootportさんだ。「毎晩お前が眠った五分後に宇宙が終わり、毎朝お前が起きる五分前に宇宙が生まれているとしたら―」という印象的なフレーズで幕を開ける『サイバーパンク桃太郎』は、ネオ・オカヤマのスラム街を舞台にした“SF版桃太郎”ともいえる作品。ストーリーは誰もが知っている昔話『桃太郎』を下敷きにしながら、退廃した近未来を感じさせるエッセンスが随所に散りばめられている。8月17日現在Twitterでは25ページまでが公開されており、読者からは「すごい予感しかしない!」「設定から面白い」「早く続きを読ませてくれ…」「AIでここまでできることに感動」といった期待の声が上がっている。
作者のRootportさんによると、同作は48~56ページ程度の読み切り作品であり、Twitterでの不定期掲載を予定しているという。従来の漫画制作の現場に一石を投じる、実験的な取り組みに今後も注目したい。
漫画の世界はより豊かで多様に。作者が見出した“お絵描きAI”の可能性とは?
―― 同作はイラスト自動生成AI「Midjourney」を使って制作されています。このような手法で漫画を作ろうと思った理由やきっかけがあればお教えください。
「こいつはどこまでデキるヤツなんだろう?」という純粋な興味・好奇心が一番の理由です!Midjourneyのようなお絵描きAIは、キーワードを入力すると綺麗な画像が生成されて楽しいね……というだけの道具ではないと思うんですね。どんな使い道があるか、探求したくなりました。
実際に使っていただくと分かると思いますが、お絵描きAIで生成される画像は一見すると綺麗なものの、人間のイラストレーターが描いた作品に比べれば(少なくとも今の技術水準では)、比べ物にならないほど見劣りします。カニとカニカマくらい違う。AIの作る“画像”は、計画性や、緻密な設計に基づいた〝絵〟ではないからです。お絵描きAIの弱点を上げればキリがありません。けれど、お絵描きAIが面白い道具であることは間違いありません。何とかして使い道を見つけてあげたいな……と興味をくすぐられました。そして、お絵描きAIでマンガを作る「実証試験」として、『サイバーパンク桃太郎』に着手しました。
―― 高精度のイラスト生成AIの登場について、漫画原作者として、どのようにお考えでしょうか。
お絵描きAIが実用化されれば、マンガの世界は、より豊かで多様になると思います。将来的には「お絵描きAIで作画されたマンガ」は間違いなく増えるはずです。『サイバーパンク桃太郎』が商品化に足る品質になっているかどうかは分かりませんが、この先、間違いなく私よりも上手くAIを使いこなす人が出てくるでしょうし、より高性能なAIも登場するでしょう。
たとえば初音ミクが現れても、それまでの音楽は無くなりませんでした。新しい「ボカロ曲」というジャンルが生まれただけです。『アバター』のような3D映画、4DX映画が登場しても、それまでの映画は無くなりませんでした。ゲームの世界では3DCGを多用したAAAタイトルが当たり前になりましたが、Steamを開けば今でもファミコン時代のような8-bitドット絵の作品が楽しまれています。お絵描きAIもこれらと同様、今までの何かを代替する技術ではなく、「新しいジャンル」を生み出す技術だと私は考えています。余談ですが、現在のMidjourneyの画力は、初音ミクの歌のようにたどたどしいです。初音ミクの歌唱力が「P(プロデューサー)」の腕前に左右されるように、Midjourneyの画力は「召喚士」の「呪文詠唱」の腕前に左右されます。※「呪文詠唱」については後述
―― イラスト自動生成AIで描画するにあたって、苦労した点や不便だった点、逆に利点などがあればお教えください。
Midjourneyに望みの絵を描かせるためには、キーワードの組み合わせが非常に重要です。脳内にあるイメージを、一旦すべて言語化する必要があります。少しずつキーワードを調整してイメージに近づけていくのですが、結果として、まるで「呪文」のように長いキーワードを練り上げることになります。
しかし、練りに練った呪文でも、望み通りの画像を得られるとは限りません。最後はMidjourney様の気持ち次第です。初音ミクや結月ゆかりのように、人間の思い通りにできるわけではないのです。ボーカロイドを「P」としてプロデュースしたり、ボイスロイドを「調教師」として調声しているのとは、お絵描きAIの使用感は異なります。最後は祈るしかない。お絵描きAIを使っていると、自分がRPGの「召喚士」になって、呪文を詠唱して異世界から(モンスターの代わりに)画像を呼び出しているような気分になります。
マンガを組み立てるには大量の画像が必要で、それらすべてをイメージに近づけていく作業は、根気が要ります。ですが、望み通りの画像を召喚できる「呪文」を発見できたときには達成感を味わえます。とても楽しいですよ!
―― 同作は昔話『桃太郎』をベースにしたストーリーですが、『桃太郎』を題材にした理由や、工夫した点・こだわった点があればお教えください。
あくまでも「実証試験」が目的なので、肩ひじ張らない、簡単なお話を描こうと考えました。『サイバーパンク桃太郎』は48~56ページ程度の読み切りとして構想しています。物語の大雑把な流れはすでに決めてありますが、毎朝の1時間の散歩中に設定から結末まで思いつきました。
ちなみに……。どこまで本当かは知りませんが、マンガの新人賞では桃太郎をベースにしたお話が山ほど送られてくると聞いたことがあります。桃太郎は身近で、誰もが手を出したくなる題材なのでしょう。手垢が付きまくっているということを理解した上で、今回はあえて『桃太郎』を題材に選びました。何か新しいモノを書いてやる! という気持ちよりも、既存のクリシェを組み合わせて即興で作ろう……という発想です。クリシェの組み合わせの中から、何か少しでも「新しい!」と感じていただけるものがあればうれしいです!
―― Rootportさんが原作を担当されている漫画『神と呼ばれたオタク』(現在連載中)も、SF色の強い作品かと思いますが、SFやファンタジージャンルで創作する理由があればお教えください。
私は小学生時代に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ジュラシックパーク』『エイリアン』『ターミネーター』などのハリウッド映画を見て育った世代なので、深層心理レベルでSFが好きなのだと思います。
SFは現実逃避として楽しむこともできますが、それだけではないと思います。海外旅行に行くと、かえって日本のことがよく分かるみたいなものでしょう。現実世界・現代社会からちょっと離れた場所に視点を置くことで、かえって“今の私たち”のことが理解できる。SFにはそんな魅力があるのではないでしょうか。連載中の『神オタ』にも、そういう思考実験のような面白さが盛り込めていればいいな……と思っています!
―― 最後に、応援してくれているファンや読者にメッセージがあればお願いいたします。
不定期更新になるかと思いますが、気長にお付き合いいただければ嬉しいです!完走目指して頑張ります!
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原作:Rootport 漫画:臼井ともみ
くらげバンチ(新潮社):https://kuragebunch.com/episode/3269632237305134528
■Twitter:Rootport(@rootport)