おじさん／独身。異世界帰りの34歳。セガマニアのレトロゲーマー。笑顔はキモいが声はとても良い。現在は異世界グランバハマルで身に付けた精霊魔法を活用し、YouTuber「異世界おじさん」として活動中。そんな異世界帰りのおじさんの現代生活が描かれる、アニメ「異世界おじさん」(毎週木曜日深夜10:30- AT-Xほか)が話題となっている。秋クール（10月-12月）の深夜アニメは「チェンソーマン」「SPY×FAMILY」(第2期)などの期待作が揃っているが、“ウケる”という点で言えば「異世界おじさん」の面白さはすでに折り紙付きだ。本来は夏クール(7月-9月)の放送だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、第8話以降の放送を休止。10月6日より、改めて第1話から放送されることになったという事情がある。放送前はそれほど注目を集めているわけではなかったが、第1話放送で一気に人気に火が点いたダークホース的な作品である。1990年代と現在のジェネレーションギャップ、おじさんのほとばしるセガ愛、ヒロインの可愛さなど、放送再開を機に、改めて本作の魅力に触れてみたい。
懐かしさと新鮮さ。おじさんが直面するジェネレーションギャップ
「異世界おじさん」はウェブコミックサイト「WebComicアパンダ」で連載中の、殆ど死んでいるによるギャグファンタジーコミックのアニメ化作品。舞台は2017年の日本。17歳のときにトラックにはねられ、以来17年間、昏睡状態にあったおじさんが目を覚ます。実は意識不明の間、おじさんは剣と魔法のファンタジー異世界グランバハマルに渡っていたのだという。突拍子もない話に正気を疑う甥のたかふみだったが、本当に魔法が使えると知り、おじさんの力を金に換えて食っていこうとYouTuberデビューさせるのだが……。
こんなストーリーで始まる「異世界おじさん」の面白さにまずあるのが、1990年代をよく知るアラサー以降世代と2000年以降のZ世代に生じるジェネレーションギャップだ。おじさんが知る文化、常識、価値観は2000年で止まっているため、目覚めてからは様々な場面でジェネレーションギャップに直面する。この2000年からの17年というのが実に絶妙な空白期間であるのだ。
「こち亀」「笑っていいとも！」の終了、文豪ミニの進化(注・スマホのことである)など、おじさんビックリな平成の変化は当時を知る世代には懐かしさで刺さり、今でこそ世間の共通認識となっているツンデレ概念、ネット用語の「w」が17年前(作中2000年)には存在しなかったというのは、10代、20代には新鮮な驚きになるところだろう。
また、おじさんが夢中になるインターネットの普及も2000年を過ぎてから。Wi-Fiをウィーフィーと読み、2Gのスライド式ガラケーをカッコいいと欲しがるおじさん。そんなミレニアムカルチャーに触れるおじさんのリアクションは世代によって共感や懐かしさ、新鮮な発見にもなってくる。ちょうどおじさんとたかふみ、たかふみの幼なじみである藤宮のキャラクター配置がひと昔世代とZ世代のアイコンになっており、3人のリアクションの違いがそのまま視聴者側のリアクションに繋がるのが絶妙な共感性の高さを生む構図にもなっている。
こうしたジェネレーションギャップというのはよくある定番ネタではあるものの、熱心なセガユーザーだったおじさんはそのあたりのポイントが少々ずれており、現代への帰還後、最もショックを受けていたのが本作の中核ネタである、セガのゲーム機撤退という事実だった。
おじさんの深すぎるセガ愛。不遇のセガに今こそ脚光を
おじさんのセガへの愛は深い。初恋相手は小学生の頃に出会ったソニックとテイルスだと語り、「ぷよぷよ」で人生訓を学び、“七瀬楓”と恋愛をしたという重度のセガマニアである。おじさんからはそうした往年のセガユーザーを刺激するワードやエピソードが次々に発せられ、しかも嬉しいのが、アニメ化におけるセガ全面協力という吉報だ。原作では伏せ字だったタイトルワードが解禁され、「ガーディアンヒーローズ」や「エイリアンソルジャー」「獣王記」といったセガ名作ゲームの名称がフルオープンにされている。タイトル効果は大きく、聞くだけで思わずウンチクを語りなくセガユーザーも多いことだろう。そんなおじさん＆「異世界おじさん」のセガ愛を全力照射し、制作スタッフのリスペクトも見えるセガゲームのオマージュに染められたオープニングムービーは素晴らしく、初回放送時、特にセガ世代が沸いた理由がこれになる。
セガサターンの起動画面から始まり、「心霊呪殺師 太郎丸」(セガサターン)のオープニング、「ナイツ NiGHTS into dreams...」(セガサターン)のプレイ画面などに続き、後半では当時のカクカクポリゴンまで再現した「Digital Dance MIX Vol.1 安室奈美恵」(セガサターン)、 ようやくの移植に歓喜した「ストリートファイターIIダッシュプラス」(メガドライブ)のリュウ編エンディングのオマージュで締めくくられる。途中にはセガのセガールCMまで組み込むという小技もあり、映像を観終えてニヤリと笑うおじさんと、ガックリ肩を落とすたかふみと藤宮の対比は、セガ世代としては気持ちが分かるだけに軽く吹いてしまう思いだ。
もちろん、過去にもゲームネタ作品は存在してはいるが、本作は“不遇のセガ”をネタにしているのが他とは違うポイントになる。メガドライブではスーパーファミコンの後塵を拝し、セガサターンでもプレイステーションの勢いに負けたセガは徐々にシェアを奪われ、ニッチなゲーム機へとなっていった。周りにユーザーがいないためゲーム交換や話題の共有がままならない。世間で人気のゲームよりセガオリジナルで遊ぶ日々。こんな寂しい思いをしたセガユーザーは少なくないだろう。青春ソロプレイのおじさんは、そんなセガユーザーが自虐ネタにする姿そのものであり、不遇なセガ体験談は愉快なディスりとして今世代にも刺さる笑いのツボになっている。
