長澤まさみが主演を務めるドラマ「エルピス―希望、あるいは災い― 」(毎週月曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)が、10月24日よりスタート。また本作のスピンオフドラマ「8人はテレビを見ない」が、民放公式テレビ配信サービス・TVerにて独占無料配信中だ。とあるシェアハウスで暮らす8人の男女の生活が、「エルピス」本編に登場する情報バラエティ「フライデー★ボンボン」を視聴するシーンを通じて本編とリンクする短編ドラマで、SNSではさっそく考察が盛り上がっている様子。スピンオフに出演するのは、演劇やコントで活動する8人組のユニット・ダウ90000。また脚本も主宰の蓮見翔が手掛けている。主宰公演は即完売、お笑い賞レースでも爪痕を残し、マルチに活躍するダウ90000の魅力とは?ライター・土佐有明さんが解説する。
ダウ90000の「捉えどころのなさ」に惹かれる
お笑いに一過言ある人なら、漫才やコントのみではなく、小劇場演劇にも目を向けるべき。ずっとそう思っていた。実際、かもめんたるが劇団かもめんたる名義で公演を行なったり、ラーメンズの片桐仁、又吉直樹、アキラ100%らが俳優として舞台に立ったりと、芸人が演劇に参入する例は数多いからだ。
逆も当然ある。シベリア少女鉄道の土屋亮一、ハイバイの岩井秀人、五反田団の前田司郎、ロロの三浦直之、玉田企画の玉田真也らが、ドラマやバラエティ番組に多数関わっている。言い換えれば、演劇とお笑いを両またぎする人材が増え、両者の境界線が融解しつつあるというわけだ。そして、20代前半のメンバーが中心の男女8人組=ダウ90000(以下、ダウ)はそんな時代に出るべくして出てきたユニットだと思う。
筆者は「旅館じゃないんだからさ」「ずっと正月」といったダウの公演を見て、演劇のようでもあり、尺の長いコントのようでもあり、シチュエーションコメディのようでもある、そんな捉えどころのなさに惹かれた。事実、「旅館じゃないんだからさ」で、作・演出を務める蓮見翔の書いた脚本は、演劇界の芥川賞にあたる岸田戯曲賞の最終候補に残っている。受賞こそならなかったものの、選考委員の選評では、岩松了、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、岡田利規らが絶賛。「ここまで誉めておいて受賞を逃すのってどういうこと!?」と驚嘆してしまったほどだ。
野田秀樹に至っては、「中身はないけど面白い、というのはこういう作品を言う。しかも実に面白い。実に面白い分だけ、実に中身がない、と感じてしまう。それほど魅力的な作品だ」と皮相なことを書いているが、要するに、未知なる才能に遭遇して、まだその作品を咀嚼/消化し切れていないということだろう。
小気味良い会話劇「8人はテレビを見ない」
一方お笑いのフィールドでは、ダウは5人組で「M-1グランプリ2021」に参加し、準々決勝まで残っている。そして、彼らの人気を後押ししたのが、渋谷のユーロスペースで行われている「テアトロコント」だ。これはコント師と演劇人が競演する、新たな公演形態のコントライヴ。筆者が最初にダウ90000を“発見”したのもこのテアトロコントにおいてだった。
口コミによる後押しも人気を加速させた。いとうせいこう(作家、ミュージシャン)、枡野浩一(歌人)、佐久間宣行(テレビプロデューサー)らがダウを絶賛。佐久間に至っては、第一回公演「フローリングならでは」で既にダウを見ており、連鎖反応的にお笑いの側にもそのセンスが認められていった。
そんなダウは昨今、テレビでも存在感を示している。長澤まさみ主演の連続ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」が、10月24日からスタートしており、ダウはそのオリジナルスピンオフドラマ「8人はテレビを見ない」を担当。民放公式テレビ配信サービス「TVer」にて独占無料配信している。内容は、シェアハウスで共同生活を送る男女8人が、「他者を受け入れ、尊重しながら生きていく様子を描く」というものである。
こちらはドラマの内容とリンクするネタを中心にした、小気味良い会話劇で、演劇で培ったテンポの良さが深く印象に残る。毎回、ドラマ本編とスピンオフ番組の内容がシンクロし、キーワードが提示されるので、それを楽しむのも一興かと思う。ちなみに、スピンオフ2話目のキーワードは「カレー」と「ケーキ」。意識しながら見ると腑に落ちるのではないだろうか。