「海の色が綺麗やなぁ」
貴司の告白は続く。
「最初は、白い波ばっか見ててな。海の色が綺麗やなぁ…、って気ぃついて。近くから遠くへ、どんどん青色が濃くなってくのを見てた。海の果てまで見てたら、そこから空が始まってた。無限の青やで。空が暗なったら、浮き上がるように星が見えてきてん」
深く沈み込むようだった表情と声色が「海の色が綺麗やなぁ」でちょっと上向いて、無限の青について語りはじめるにつれ、少しずつ色づいて生気を取り戻していく。続けて「ただの闇やと思ぉてた空に、こんなぎょうさん星あったんやなって。今まで、狭い世界しか見えてなかったんやな…」と口にする頃には背筋も伸び、表情にも明るさが戻ったようだ。
約5分間の語りの中で、どん底の苦しみから、逃げ出したことへの後ろめたさ、五島の自然に圧倒されそれに突き動かされて再び前を向くまでの貴司の心境の変化が、映像のように再現されていく。実際に眼前に五島の美しい景色が広がる中、貴司の語りによって“告白の舞台が五島であること”の必然性も胸に迫ってくる。
繊細で、みずみずしい感性を持っているからこそ痛みを感じ、逃げ出さずにいられなかった貴司の苦しみと再生をとらえた、ドキュメンタリー映像のような5分間だ。
祥子ばんばの言葉が貴司を強くする
その後、祥子ばんば(高畑淳子)の家に身を寄せた3人。繊細な独白の後の「そっで逃げてきたとか」「変わりもんたいね!」というばんばの遠慮のなさも心地いい。
五島の自然に抱かれて自分を見つめなおした貴司にとって、ばんばの「自分のこと知っちょる人間が一番強かけん。変わりもんは変わりもんで、堂々と生きたらよか」の一言は、なにより心強いエールとなったに違いない。
11月17日(木)放送の第34回では、めぐみ(永作博美)と浩太(高橋克典)が舞を迎えに五島へやってくる。(文=ザテレビジョンドラマ部)