環境が大きく変わっても、好きなことができている喜びは変わらない
―歌詞と小説では圧倒的に言葉の数も情報量も異なります。その違いに戸惑いを感じたことは?
そらる:少なからずありました。歌詞は“あえて書かないこと”が多いんです。それは、特に僕の場合に限ったことかもしれませんが、受け手に自由に想像してもらうために、わざと余白のある表現でとどめておいたりする。その癖が小説でも最初の頃は出てしまっていました。すると、どうしてもあまり親切ではない文章になってしまうんですよね。そうならないようにするためには、より具体性を帯びた表現をしていかなくてはならないのですが、先ほどもお話ししたように、今回はファンタジーでしたので、僕の中でも多くの想像力が必要になり、そこで苦労することも多かったです。
―なるほど。本作では、ルーマもイリアとの出会いを通して成長していく姿が描かれますが、そらるさん自身も、仕事を通して世界が広がったという経験はありますか?
そらる:僕は自分が好きで選んだ趣味がそのまま仕事になっていったんです。それはつまりインターネットを使った世界だったわけですが、たまたまネットを使って遊んでいたら、それが今こうして仕事になっている。ですから、環境や規模は大きく変わりましたけど、根本にある“好きだからやっている”という気持ちはずっと変わらずあるように感じます。ただ、思いがけず、こうして小説を書く機会にも恵まれましたからね。連載を経験して得るものもすごく多かったですし、どんなことが自分の世界を広げていってくれるのか分からないものだなと感じています。
―次回作も書きたいと考えていらっしゃいますか?
そらる:……いや、今すぐには考えられないです(笑)。でも、いずれまたそうした気持ちになれば、今回の経験を活かしていきたいと思います。
―もしかするとこの本で、初めて小説を読む経験をされる方もいるかもしれません。最後に、そうした方に向けて、そらるさん流の小説の楽しみ方を教えていただけますか?
そらる:誰かに読書の楽しみ方を説けるほど最近はあまり本を読めていないのですが……そうですね、今回の僕の本に関していえば、僕がまだ小説を書くことに不慣れだったからこそ、技術に頼らず、真っ直ぐな思いで書けた部分が多いと思います。その意味では、とても読みやすく、わかりやすい内容になっていますので、初めて小説を読む方にはピッタリだと思います。それに、連載という形で書いていましたので、各章に必ず、“おっ!”と思える山場がある。だからこそ一気に楽しんでもらえるのではないかと思います。また、僕は歌詞を書くときもそうですが、年齢に関係なく楽しめるものを目指していますので、ぜひ多くの方に読んでいただけると嬉しいですね。
取材・文:倉田モトキ
写真:干川 修