浩一は小河の手を自分の胸に当て、心臓が動いていないことを確認させる
小河はにわかに信じられず、近づいてくる浩一に危ないから戻るように声を上げる。浩一が先生のほうが危ないというと、「僕はいいんだ」と小河は苦笑する。
すると、浩一は顔を曇らせて「先生はここから落ちたら全部終わりだと思っているんだろうけど、でも、違うかも」といって小河の手を掴んで自分の胸に当てた。驚く小河に「動いてないでしょ、心臓」と、浩一は真剣な目で見つめて告げる。
たまりかねた満は柵を乗り越えて、浩一と小河のもとに歩み寄る。小河にまず大事なことをいいますねと断って「この程度の高さじゃ死ねない可能性、結構ありますよ」と言い、全身骨折の重症で重い後遺症が残ると諭す。そして、満が「浩一は違うんです、この高さから落ちたら、きっともう修復できない」と続けると、浩一も肯定した。
混乱した小河が何を言ってるんだと声を荒げると、満はさらに大きな声で「今、浩一は大変なんです!」と遮る。満は真剣な眼差しで浩一は死体なんだと言い、浩一もびっくりですよねと乾いた笑いを漏らしながら、「死体になったのにまるで生きてるみたいで」という。悲壮ぶらずに達観したような浩一の表情は見ていて胸締め付けられる。そして、浩一がふと視線を落として「でも、そろそろかな」というと、満は視線泳がせて動揺するのだった。
その後、浩一が小河の首元に手をやって小河の気を失わさせ、早朝ということもあって部外者に知られることなく事態は収束した。
満も浩一も、“浩一が死体になった”という辛い事実を改めて口に出すことになり、その事実に傷ついているようすを見ていると辛くなる。そして、そろそろという浩一の言葉には満とともにドキリとさせられ、彼らの未来が感じられず切ない思いに駆られた。
構成・文/牧島史佳