コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、“作品の記憶を消して初見をもう一度楽しめたら…”という願望が現実になる世界を描く『記憶を消して読みたい漫画』(くらげバンチにて掲載中)をピックアップ。
作者のタカノンノさんが12月3日にこの作品をTwitterに投稿したところ、3.7万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、タカノンノさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
漫画家の夢を諦めアプリ開発者になっていた旧友 あえて“見せない”斬新なラストシーンも話題
新人漫画家の森メイはある日、特定の作品の記憶だけを消すことができるアプリ“BE SHOKEN”の広告マンガを目にする。その開発者として載っていたのは中高時代の同級生で、森が漫画を描くきっかけとなった友人・江波莉明だった。江波の事務所を訪れた森は、半信半疑ながらも記憶を消せるアプリを試すことに。作品をイメージしながら、画面に注目し音を聴いていると、森はいつのまにか先週読んだ短編小説の内容をすっかり忘れてしまっていた。
江波のアプリは瞬く間に普及し、漫画やゲーム、映画など過去の名作を繰り返し楽しむ人が急激に増えていったことで、業界全体において新作の需要が無くなっていった。漫画雑誌の休刊が相次ぎ、お気に入りの作家や担当の編集者さえも離職しようとする中、森自身も漫画家をやめようか、という考えが頭をよぎる。業界の危機を感じた森は江波の元を再び訪れ、今の状況を伝える。すると、江波は「こんなに上手くいくとはな」と言いながら驚きの“復讐”計画を明かし…。
“作品の記憶を消してまた楽しめるアプリ”の存在を通して、ライバル同士である漫画家志望の苦悩と何物にも代えられない友情を描いた本作。相手の反応をあえて“見せない”ラストシーンなど全体を通して巧みな構成も話題となり、Twitter上では「素晴らしい」「初見の感動をもう一度、の先にはこんな世界が…!」「マンガにしかできない表現がすごい」「めちゃくちゃおもしろい」「構成が巧い」「最後の切り方がかっこよすぎる!」「作品1つに詰め込んだ思い出を改めて教えてくれた」「作者を尊重して次作への期待をするのが私たちファンの役目なんだ」「この作品こそ記憶を消してもう一回読みたい」など多くのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。
「普段なんとなく思っている“もしも”を形に」作者・タカノンノさんが語る創作の裏側
――『記憶を消して読みたい漫画』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
くらげバンチの編集者の方と打ち合わせをしている際、「面白い映画とかゲームとかに出会った時の感想で『記憶を消してもう一度見たい(遊びたい)』って言うのありますよね」という話になり、そこから「もし本当に記憶を消せたらどうなるだろう」と考えを膨らませて作りました。普段なんとなく思っている「もしも」を形にするって面白いですね。
――“記憶を消せる”アプリの開発者である江波莉明と、江波の中高時代の友人で漫画家の森メイ、それぞれのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
私は元々こういう関係性の二人組が好きなんです。友人同士互いに憧れているんだけど、そこには成功する相手への嫉妬みたいな感情もあって、でも心の中では認めている、みたいな。自分もジェラシーを抱くことがしょっちゅうあるので、「分かるよ…」と二人に言いたいです。今回は、作家とアプリ開発者という、作中で関係し合う設定の二人にそうした属性を付けることができて面白くなったのだと思います。
――“記憶を消してもう一回体験したい”という感情をテーマにした本作は、とても共感性が高く話題を集めています。本作に込めた思いや、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
映画、ゲーム、小説、漫画、新しい作品をどんどん買って作家を応援してください…。面白い作品は常に生まれ続けているので…。
――本作の中で、タカノンノさんが特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
物語後半、主人公の森が呆けた顔をしている横で、男女二人が「この映画観ようよ」「いやそれもう観たでしょ」と会話しているシーンが好きです。二人で同じ作品を分かち合ったあの瞬間を忘れてしまった女性に対する男性の反応が、切なくて素晴らしいですね(自画自賛)。
――“記憶を消せる”アプリがもし現実にあったら、タカノンノさんは使いますか?もしも「使う」場合、どんな作品や体験のために使いますか?
最近だとゲーム『ファイナルファンタジー14』の物語が凄まじく面白かったので、それの記憶を消してもう一回遊びたいです。そしてツイッターで絶賛コメントを呟いて、「コイツまた同じこと言ってるよ」って思われたり。
いや…本当にアプリがあったら使いませんけどね。脳への影響とか怖いし…。その他にも理由はありますが、それについては漫画本編を読んでください。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
いつも私の作品を読んでいただき本当にありがとうございます。あなたが居てくれるから私は漫画を描いてゆけます。これからも読み続けてください。きっと面白いですよ。