片目の演技で見せたせつなさと哀しみ
これまで「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」や「ある春の夜に」など“メロ職人”とも呼ばれるほどラブストーリーを得意とし、「D.P.」では脱走兵を捕まえに行く憲兵役を演じて一転して男臭さも見せた彼だが、今までの役は総じて“善人”だった。今回のドンスも善人だが、苦しみや恨みを抱えるダークサイドのキャラクターでこれまでとは明らかに違う。両眼をくりぬかれた状態で眼を探してさまよう彼の姿は、かなりショッキングだ。
CGとわかっていても、眼が無かったり、あちこち切り落とされたりするチョン・ヘインを見るのは胸が痛い。
だが撮影現場ではそんな惨事が起きているわけがなく、例えば裂けた傷口から触手が伸びて皮膚が再生するのを想像して演じなければならない為、最初の頃はちょっと恥ずかしい思いをしながら撮影していたようだが、次第になれてきて、完成版を観た時には、「こんなことになってたのか!」と視聴者と同じように驚き、監督のアドバイスに大いに感謝したそうだ。
精巧なCG技術もさることながら、彼の苦痛に歪んだ表情によって、私たちにも“痛み”が共有された。また、アクションもスタント無しでこなし、「血、汗、涙の結晶です」と手加減無しで臨んだことを後日のインタビューで語っていた。
CGやアクションだけでなく、内面の演技でも繊細な表現を見せた。彼は脚本を読んだ時、「単純にジャンル物、娯楽的なウェブトゥーンを越えて、同時代を生きている現代人たちが体験する人生の苦悩や寂しさと孤独を、特にドンスから大きく感じた」そうで、内向的で鬱屈したドンスのキャラクターをせつないまなざしで見事に表現している。
演じる上で目の動きは大きな役割を持つが、今回チョン・ヘインは常に片目での演技を強いられた。それは不完全な道具で戦うようなもので、彼も非常に不安だったと言う。だが、監督やスタッフと納得いくまで話し合い、片目だからこそ出せる哀しみやせつなさを見せた。
監督とのやりとりはボディランゲージで
今回、コロナ禍の為に撮影前の会議はほぼリモートで行われた。三池監督とチョン・ヘインもリモートでたくさんの話をしたが、事前に会わないままで撮影に入るのは監督は不安だったんだとか。だが、ヘインが「何があっても僕は監督の味方です」と言ってくれて、とても力になったんだそう。
そして監督は「ヘインは作品にとても献身的だった。すべてのスタッフに気を遣って、自分の努力でどんな雰囲気を導けるかを知っているし、とても親切な人物。彼が現場に入ってくると安心できたし、一緒に作ろうという気持ちが伝わってきて、とても力になった」と彼を絶賛していた。
ヘインと監督の現場でのやりとりは、通訳は居たがほぼ目つきとボディーランゲージだったそう。ヘインは「言葉の壁はあまり感じませんでした。同じ方向を見て、同じ物を作り出して、同じことを望んでいる、と感じる事が多く、監督と“コネクト”したようでした。面白くて不思議な経験でしたね」と回想していた。残念だった点は、監督が言った冗談に対して通訳を通す為にすぐにリアクションできなかった事。監督が笑い待ちしてるのがわかっただけに、心残りが多いそうだ。
「自分を追いつめなくてもいい時がある」と知りました
「コネクト」への出演は、他にも得たものが多かったようで、「まず、良い俳優やスタッフ、監督に会えたこと。もう1つは自分の中にあった新しい姿を見ました。抽象的だったモノが表に出てくる喜びがありました。CG演技など初挑戦もあり、“できそうだけど?”“できるかな?”っていうこれまでの質問が、今回の作品を通じて実現されたようで良かったです」と多くのメリットを挙げた。
また「自分を追いつめなくてもいい時があるんだな、と知りました。最善を尽くさないという事じゃなくて、極限まで自分を追いこむのが常に最善ではないかもしれない、と思うようになりました」とも語っている。
「すべての作品ごとに少しずつでも成長しなければならない」と言うチョン・ヘインは、今回も、CG演技などのスキルや、手抜きではなく肩の力を抜いて演技するのも良い、という考え方など大いに成長したようだ。次作として「D.P.2」、映画「ベテラン2(仮)」と硬派な作品が続くが、さらに柔軟な演技を見せてくれそうだ。
◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョン編集部
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