西島秀俊“架川”の言動にすぐさま順応する濱田岳“光輔”
――実際に撮影に入り、お三方の活躍には期待通りの手応えを感じていらっしゃいますか?
想像以上ですね。この三人の化学反応を感じています。まず、西島さんと濱田さんは共演回数も多く、何も語らなくても二人の間でちゃんと空気感と距離感が出来上がっているんです。
例えば架川が突然後ろ歩きするとか、台本を読んだだけではあまり想像できないような突拍子もないことって、いざ本番でやると周りの役者さんが戸惑ったりするんです。でも、濱田さんはそこをちゃんと、時にコミカルに時に厳しくいなしてくださっているので、そこが本当に面白い。
想像と大きく違ったのは、僕は西島さんとご一緒するのは初めてで、どうしても西島さんって同じ刑事ものだと「MOZU」(TBS系、2014年)とか、クールでダンディーな役のイメージが強くコミカルのイメージはなかったのですが、ご本人が実はそういったコミカルな演出に前向きな方だったということ。抵抗もなく「後ろ向きで歩くんですね!」と(笑)。
架川の携帯の着信音や待ち受け画面が「はぐれ刑事」(1975年、日本テレビ系)なのも、実は西島さんのアイデアなんです。打ち合わせ時に、義理人情を大切にしている刑事かつ、さらにもう一歩進んだキャラクター像を、ということで西島さんからご提案いただきました。
台本には書かれていないことなので、濱田さんからするとお芝居中に突然携帯が3つ出てきて、着信音が全部「はぐれ刑事」で、「えっ!?」となるところを、ちゃんとその間を持ったうえで冷静に芝居で返せるところがすごいなぁと思っています。なかなかできないですよね。
そこに絶妙な間で入ってくるのが直央で、上白石さんの普段のパブリックイメージよりはだいぶはっちゃけているし毒舌なキャラクターなのですが、上白石さんもそこの間合いのテンポ感が非常にいいんですよね。
最初は西島さんと濱田さんのお二人のシーンから撮影を始めていって、少し経ってから上白石さんが入られたのですが、ファーストシーンのときから三人の関係性がしっかりと見えていました。
本の世界を飛び越えて伝わるもの
――現場の雰囲気はいかがですか?
今回、そうそうたるキャストにご出演いただいているのでワンシーンワンシーンの完成度がすごく高いですし、ご本人たちもすごくノリノリでやってくださっているので、その楽しさが画面からも伝わるのではないかなと思います。
西島さんが仰っていたことなのですが、「自分たちが楽しく演じている空気は画面を通して視聴者の方にも伝わるはずだ」と。本当にその通りだなと思いました。
架川がいま台本以上にポップでチャーミングな存在になっているのですが、そういうキャラクターでいこうと決めたときに、「やり過ぎたら止めてくださいね」と仰られていたくらい楽しまれています。
僕らプロデューサーの一番の仕事は、企画を作って脚本を作ることです。その中で、本作りに対する思いがすごく大きいので、ともすると、自分たちが作った本の中だけで物事を考えてしまいがちなのですが、架川はいまや本の世界からちょっとはみ出ています。
それを演者の皆さんが楽しく受け入れてくださって、さらに掛け合いで乗ってきてくれる。これは確かに、本の世界を飛び越えて、見ている人にも面白く感じていただけるのだろうなと、僕の中でも改めて腑に落ちました。
当初はもう少しハードに作ろうと思っていたのですが、西島さんのそのお話を聞いたときに、気持ちが固まっていきました。シリアスな部分は残しつつ、コミカルでチャーミングな部分を持ち味として、それが出演者の魅力をより引き出すことにつながっていけばいいなと思いながら進めています。