長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は2021年に放送されSNSで話題となり、現在もTVerで配信中の「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」(BSテレ東)をチョイス。
フェイク・ドキュメンタリーの面白さと難しさ「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」
先週に鑑賞した「このテープもってないですか?」でフェイク・ドキュメンタリーの面白さを再認識した私は、同番組を製作したプロデューサー、大森時生氏が2021年末に製作した「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」を続けて鑑賞した。前回の記事では、一応伏せておいたほうがいいかな、と判断し番組の実体についてはほとんど語らなかったのだが、もういいでしょう、「このテープ」も「奥様ッソ」もフェイク番組、簡単に言うと全やらせのフィクションであるという前提のもと、色々と感想を述べさせていただきたい。
スタジオでVTRを鑑賞する出演者たちまでもが狂い始める「このテープ」に比べ、この「奥様ッソ」はあくまでテレビ番組としての枠組みを保ったまま要素を出し入れし不穏さを演出していくというスタイル。個人的には「奥様ッソ」におけるフェイク・ドキュメンタリーとしての堅実さが好みで面白く見たのだが、ホラーとしての派手さにおいては、「このテープ」に軍配が上がるだろう。そもそも、同じプロデューサーであるからといって、まったくの別物だと言っていい両番組を比べて語るのはナンセンスかもしれないので、ここからは「奥様ッソ」の感想に集中させていただきます。
いや、またしても、本当に面白い番組でした。
私が特に気に入ったのは、VTR内での不穏な出来事と、それをスタジオで鑑賞するAマッソとの関係性である。もちろんAマッソだってフィクションの一部であるわけで、このVTRが”そういうもの”であるというのを承知したうえでの立ち回りであるはずだが、にしたっていつものAマッソなのだ。VTRへのヤジやツッコミが的確で面白いのは、フェイク番組であるとか関係なく、紛れもなく彼女たちの力量によるものだろう。もちろん、彼女らの語る「ハムスターの悲鳴(?)で肌を保湿している」、「結婚記念日に高級レストランを貸し切ってサバゲーをした」というようなデタラメ(本当だったらすみません)なエピソードトークや、ところどころの嘘っぽい発言がフェイク番組を構成する一要素となっていることは確かだけど、Aマッソは、狂うことも、不穏さに気付くこともなく、我々の知るAマッソとして、リアルとフィクションの橋渡しを担い続ける。ここが本当に好みでしたね。やっぱ白石晃士監督の「ノロイ」とか、アンガールズが出てきたとき嬉しかったですからね。途端にリアルさが増すというか…私が観客として素直すぎるだけかもしれないけれど。
以降、ネタバレ注意!物語の核心に触れています。
ただ、個人的に、本当に個人的にちょっと気になっちゃったのが、不自然にズームされる映像。たとえば金田朋子編では、最終的に犬がハンバーグにされちゃうけども、犬が生きた姿で写る最後の瞬間に、不自然に犬がズームされる。ズームというか、編集によってある部分が拡大され、全体の画質が粗くなるという瞬間が幾度となくあって、不穏さの演出に多大な貢献をしているのは確かなんだけども、これは、これから起こることを全部知っていますという告白になってしまっていて、それは映画とか、ドラマでやることなんじゃないだろうか。スタジオのAマッソがリアルさを高めてくれている分、ちょっと露骨すぎるような…とか思ってしまった。TVerで配信されている、家族たちのその後を紹介するニュース映像も、連中が裏で何をやっているのか、あのあと何をしでかすのか、映像で語る以上には語らぬまま、逮捕なんかされずに今ものさばっているほうがコワくていいじゃないか!という…(そんな風に終わらすわけにはいかないのかもしれないけど)
とはいえ、非常に面白く、興味深い番組であることは間違いない。誰かと一緒に見て、互いに考察をしあうのも楽しいはず。私もこれから、まだ補足しきれていないだろう映像内の仕掛けを、ゆっくりと探していきたいと思います。
世の中には、フェイク・ドキュメンタリーと呼ばれるものは山ほどあるけれど、現代のテレビ番組の体を模しているものはあまり見たことがなくて、こういうの、年1とは言わず、月1にでも作ってほしいんだけども、叶わないものでしょうか。とりあえず、「放送禁止」シリーズを見て欲望を抑えようとは思っていますが…。