コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、片腕を失った少女と自分に自信がない少年が互いに惹かれ合っていく姿を描いた『君の欠けてるとこも好き』をピックアップ。
本作は原作・倉凧きんじさん、作画・ホタテユウキさんにより描かれた、ガンガンONLINE(スクウェア・エニックス)に掲載されている読切漫画。作画を担ったホタテユウキさんが2022年12月31日に本作をTwitterに投稿したところ、2.2万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、倉凧きんじさん、ホタテユウキさんのお二人にインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
互いの弱さを認めながら歩み寄る二人 キャラクターの繊細な表情描写も話題に
自分に自信がなく劣等感を抱えながら生きる主人公・松戸春人は、高校の入学式の最中、隣のクラスの列に座っている少女・蓮見瑠衣の美しい横顔につい見惚れてしまう。視線に気づいた蓮見は、松戸に向かって笑みを浮かべながら欠けた片腕を振って見せる。彼女は右腕を失い、右半身に傷痕を残していた少女だった。
過去にいじめられたトラウマから人と目を合わすことが苦手な松戸は、入学式終わりにクラス内のグループの輪に入れず一人でいたところ、蓮見に声を掛けられて一緒に帰ることに。公園でシーソーに乗り、お互いのことについて話しながら、素直で明るく天真爛漫な蓮見にだんだん惹かれていく松戸。二人で帰ったり、一緒にランチを食べたりと関係を深めていく中で、蓮見といると自分の中の自己否定や劣等感、過剰な自意識が薄れていることに気づき、自分と“対等”な友達ができたことを内心喜んでいた。
そんな中、二人は中学時代に松戸をいじめていた少年と街中で偶然再会する。初対面で蓮見の外見をけなす言動をするいじめっ子に、松戸は勇気を出して反論するも、胸ぐらを掴まれ思わず怯んでしまう。しかし次の瞬間、蓮見がぬいぐるみを使い、いじめっ子に不意打ちをかけて松戸を助けたのだった。そんな蓮見の姿を見て、松戸は“結局自分は守られていただけ”だったことに気づく。その後、二人でいつもの公園に寄ったところで“蓮見をどこか見下して安心していた”ことを涙ながらに打ち明ける…。
人付き合いが苦手で過去のトラウマを抱える松戸と、心に傷を追いながらも明るくたくましく振る舞う蓮見が、お互いの弱さを認めつつ惹かれあっていく姿を描いた本作。登場人物の繊細で美しい表情描写も話題となり、Twitter上では「最高」「素晴らしかった」「続きが読みたい」「誰しもが何かを欠いていて、そんな二人が出会って欠けている所にも惹かれあっていく様が良い」などのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。
原作・倉凧きんじさん、作画・ホタテユウキさんの両者が語る創作の背景とこだわり
――倉凧きんじさんにお尋ねします。『君の欠けてるとこも好き』はどのようにして生まれた作品ですか?きっかけや理由があればお教えください。
倉凧きんじ:編集者の方とどういう内容の読み切りにするかメールでやりとりしていた時、「佇まいが綺麗で欠損を抱えた美少女を見かけてドキッとしたい」という内容のイラストをツイッターにアップして、「このシチュエーションでストーリーを作れそうだな」と思ったのがきっかけでした。
――天真爛漫で明るく正直な性格の蓮見と、自分自身に激しい劣等感をもつ松戸、それぞれのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
倉凧きんじ:創作の好きな要素、具体的には「明るい人が暗い人を振り回す」「後ろめたい感情で繋がる絆」「(私と性格が近くて掘り下げやすい)卑屈な主人公」「強そうに見えて傷を抱えている人」「手足や目を怪我で失った人」を詰め込んだら二人が生まれました。性格はそんな感じで生まれましたが、キャラの特徴みたいな部分では編集者の方とホタテユウキさんに良くしてもらった・形作ってもらった所が大きいです。松戸くんの性別とか、二人の一人称とか、デザインとか。
――ホタテユウキさんにお尋ねします。『君の欠けてるとこも好き』について、原作を元に蓮見と松戸それぞれのビジュアルを生み出す際、特に意識した点やこだわった点があればお教えください。
ホタテユウキ:蓮見さんと松戸くんの関係を一目でわかる様に意識しました。松戸くんは蓮見さんより身長が高いけれど、堂々と生きている蓮見さんの方が大きく且つ強そうに見えるように描いてました。
――本作を漫画として仕上げていくうえで印象深かったエピソードはありますか?
ホタテユウキ:自分はフルアナログで漫画を描いているのですが、今回初めて背景資料等を全てVR空間上で撮影して執筆しました。作り方が古典的なのに資料集めは最先端だったりと、変な方法でしたが面白かったです。作中に出てくる回るジャングルジムから頭を覗かせる蓮見さんが出てくる場面など、現実ではかなり撮るのが難しい場面ばかりでしたが、VR空間ならではの自由度で変わった構図に挑戦できたかなと思います。
――本作の中で、お二人それぞれにとって特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共に教えてください。
倉凧きんじ:たくさんあるんですが、一番は蓮見さんがいじめっ子を殴り倒して逃げるまでのシーンです。直前の松戸くんの頑張りに応えながら、蓮見さんの強さと格好良さとちょっと悪い子の部分が出ていて大好きです。「ザーコ」と煽ってる時の悪い笑顔なんかもう最高ですよね。
ホタテユウキ:特にコレっというのはありませんが、強いて言うのであれば原作ネームには無かった松戸くんが、心の内を吐露し涙を流すところですかね。調子に乗っていた自分が恥ずかしくて贖罪のつもりか漏れ出た言葉に、初めて松戸くんの本音を見れた気がしましたね。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
倉凧きんじ:有限で貴重な時間と感情のエネルギーを私の作品に使ってくださり、本当の本当にありがとうございます。誇張無しで皆さんに生かされています。自分の中の「良い」「好き」を煮詰めた塊を叩きつけていく事でお返しができたら…と思っています。これからもよろしくお願いします。
ホタテユウキ:自分は普段こういうジャンルの漫画を描かないので拙い出来かもしれませんが、一人でも多くの方に楽しんで頂けたら幸いです。