声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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蜂蜜をひとさじ匙なめると、不思議な多幸感がある。それに気づけたのは、たぶん少し年齢を重ねてからだったと思う。
今回紹介するのは、寺地はるなさんの『今日のハチミツ、あしたの私』だ。本作は中学生の頃、明日なんて来なければいいと思いながら生きていた主人公が、見知らぬ女性から蜂蜜をもらって食の大切さに気づき、30歳になった主人公は養蜂と触れ合いながら、人との繋がりを自分で結びつけていく姿が描かれている。
作中で何か大きな変化や事件が起こるわけではないけど、時間に縛られず1日を必死に生きることの大切さが丁寧に描かれていて、読了後、心に優しさが灯る感覚が印象的な作品だった。私が特に共感できたのは、主人公の性格だ。
彼女は頑張りすぎてストレスが溜まると胃がキリキリする、と描かれているが、私も同じだ。そしてそんな時は決まって、蜂蜜に頼る。大学生の頃は、授業が詰まると決まって胃が痛くて朝起きられなくなったし、「大変じゃない」と頭では思っていても、朝現場に行こうとすると胃が痛くて、電車に乗ることすらつらい時もある。
そんな時は「あぁ、またか。」とは思いつつも「意外と疲れてたんだな」と気づけるサインになっているからこそ、ひとさじ蜂蜜をなめて、安心するようにしている。
思い返せば、子どもの頃蜂蜜があまり得意ではなかった。
蜂蜜の独特な香りと、喉にピリッとくる感覚が苦手で、蜂蜜よりもメープルシロップが好きだった記憶がある。
それが、気づけば蜂蜜が大好きで飲み物にも入れるし、単体でも食べるようになっていた。そんな思い出をゆっくりと思い出しながら、本作を読み進めていた。
作中に何度も登場する蜂蜜はもちろん魅力的だが、主人公の碧が発する言葉たちが、優しさとほろ苦さを含んでいて、彼女の言葉を目にするたびに、心に深く深く刺さっていた。
「自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないから。いるように見えたとしたら、それはきっとその人が自分の居場所を手に入れた経緯なり何なりを、見てないだけ」という言葉にドキリとする人も多いのではないだろうか。
「あの人は努力もしないであの位置にいけた。ずるい。」そんな考えになってしまうことは、人は誰しもあると思う。
それは、居場所を自分で切り拓いた側の人が努力を見せないだけであって、居場所を持続させるにはその人の力あってこそ、だと常々感じる。私は人見知り、というより誰かとコミュニケーションを取るのが実はすごく苦手だ。
それは話し慣れている人でも同じだ。これを分かってくれる人はあまりいないので、よく「日向ちゃんは話すの得意だよね」と言われる。
そう見えるよう頑張ってみてはいるが、苦手だなんだ、と言っている年齢でもなくなってきてしまっている。それに本作を読むと、一度の出会いを一生の出会いに繋げる力は自分次第なんだ、と強く思った。緊張をしても、蜂蜜を少し食べて、"あしたの私"が少しでも明るくなれるような時間作りをしようと思える作品、是非手に取ってみてほしい。
https://ddnavi.com/serial/sato_hinata/
佐藤日向(さとう・ひなた)
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。