コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、ネット上で活動する覆面グルメ評論家を主人公に、グルメ業界で起こる様々な物語を描く漫画『辛辣なるグルメ』(小学館)をピックアップ。
原作・香川まさひとさん、漫画・若狭星さんの二人によって描かれ、「ビッグコミック」(小学館)にて連載されている本作は、これまでの食をテーマにした作品とは一線を画すグルメ評論漫画としても話題を集めている。若狭星さんが1月30日に本作の15話と16話「人生の味(前・後編)」をTwitterに投稿したところ、3万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、作者であるお二人にインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
一食に人生がある…思い出の“味”が親から子へと受け継がれていく物語に感動の声「心が満たされる」
「グルメの世界を公明正大にしたい」という理由から、“グールマン”という名でネットを中心に覆面グルメ評論を続ける男・半田彦助。ある日、グールマンは自身のファンであるグルメ女子・黄金屋比呂美を誘い、町のトンカツ屋“トンカツ陣野”を訪れる。のれんが掛かった和風の店構えで、ゆったりとした時間が流れる店内。すべてを店主1人で切り盛りするため提供までに時間を要す店ながら、最近になってグルメサイトでの評価が上がっていた。
2人の前にロースカツ定食が置かれると、美味しそうに食べ進める比呂美。一方、カツを一口食べて思わず涙を流すグールマン。若いころよくこの店に食べに来ていたことから、ここのトンカツが自身にとっての“人生”の味だと比呂美に明かす。味覚が、味だけでなく過去の自分をも記憶していることにグールマンは感動を覚えていた。
そこに、昔店内でよく顔を合わせていた年配の常連客が来店する。閉店することを聞きつけてこの店を訪れたという客の言葉に、驚く比呂美。今になってグルメサイトの評価が上がっているのは、常連たちによる“はなむけ”の星だったのだ。グールマンのことを覚えていた客は、当時一緒に食べに来ていた中学生の息子が成長し、現在調理人として飲食店を持っていることを明かす。ふと気になったグールマンは詳細を聞き出し、早速その店を訪れることに。そして先ほどと同じくロースカツ定食をオーダーすると、常連客の息子が作るその味にグールマンは“トンカツ陣野”との特別なつながりを感じて…。
ひとつの店の“味”が、訪れた人々の味覚に思い出として刻まれ、さらに親から子へと引き継がれていく様子が丁寧に描かれた本作。Twitter上では「料理ってすごいな…」「いい話」「涙が出た」「心が満たされる」「何よりあったかい話」「しみじみする」「優しい鳥肌立った」「一食に人生がある」「学生時代によく行ったお店のことを思い出してしまった」「とんかつが食べたくなる!」など多くのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。
原作・香川まさひとさん、漫画・若狭星さんのお二人が語る創作の背景とこだわり
――香川まさひとさんにお尋ねします。『辛辣なるグルメ』はどのようにして生まれた作品ですか?きっかけや理由があればお教えください。
香川まさひとさん:評判の店に行ったら、それほどでもなかったという話をしたら、担当編集もそういうことはあったというので、そこからこの話は始まりました。
――店に媚びることなく辛辣なグルメ評論をしていくグールマンこと半田彦助と、そんなグールマンに興味を持つ黄金屋比呂美のキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
香川まさひとさん:彦助の批評に対する態度は真剣ですが、批評は人を傷つけるし、そのことに彦助は気づいていて、それがダサい言葉遣いに出るのでは?と考え造形しました。比呂美は彦助の批評も、その言葉遣いも良いと思ってるので、よしもと新喜劇のような受け答えになるのでしょう。
――若狭星さんにお尋ねします。『辛辣なるグルメ』について、原作を元に漫画として仕上げていくうえで印象深かったエピソードはありますか?
若狭星さん:「うまいとは何か」編(単行本2集収録)のチャーハンを扱った回です。「うるさい店主がいる店で食事は嫌だなぁ」と思ってシナリオを読んでいたんですけど、最終的には「たまには怒られるのも悪くないな」と考えが変わっている自分がいて、原作の香川さんの巧みなシナリオに唸りました。
――本作では、音が聞こえてきそうなほど丁寧に描かれる料理のシーンや、食事をする登場人物たちの感情あふれる表情描写も印象的です。若狭星さんにとって、作画の際に特にこだわった点や意識した点があればお教えください。
若狭星さん:食事をするという行為は誰でもするので追体験がしやすい、それがグルメ漫画だと思います。逆を言えば嘘があれば簡単にバレてしまう。なるべく読者が「そうそう!」と頷いてくれる画面を目指しています。
――本作の中で、お二人が特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
香川まさひとさん:「人生の味」(トンカツ屋さんの話)の後編「料理ってすげえな……」のセリフ。30年通っている町の洋食屋さんがあるんですが、そこのチキンカツに添えられたちょっと辛いケチャップが大好きで、こうして書いてる今もその味が思い出せるし、食べたくなってきます。よって「料理ってすげえな」と思います。
若狭星さん:「最後の晩餐」編(単行本3集収録)が印象的でした。「食べること」についてライバルの坂本とぶつかるシーン。主人公も坂本もどちらの意見も正しい、というか正解がない。結局は自分にとって都合が良いか悪いか、好きか嫌いか。そういうのが正直に書かれているのが好きです。無理に勝ち負けの話にしないで考える余地がある、そこが良いんです。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
香川まさひとさん:批評ってなんだろう、食べるってなんだろうと考えながら毎回書いてます。「読み終えて〇〇が食べたくなった」と言っていただくのは最高の喜びです。これからも漫画家若狭さんと担当編集者とチームになって良い作品を作っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
若狭星さん:香川さんのシナリオは白か黒かではなく「曖昧さ」を楽しめるような複雑さを持っています。その読み味を楽しんでいただけたら嬉しいです。