2023年3月6日、ReoNaは自身初の日本武道館ワンマンライブのステージに立つ。直前には自身初のアーティストブック「Pilgrim」を刊行。そして届けられる2ndフルアルバム『HUMAN』(3月8日発売)は、絶望系アニソンシンガー・ReoNaがデビューから歩んできた5年弱の道のり、アニメやゲームの物語と向き合ってきた経験、自らのお歌を受け取る聴き手や、ともに音楽を作るクリエイターたちとの出会い――それらすべてと、さまざまな局面で生まれた感情を投影した1枚となった。「絶望」と向き合い、寄り添い続けた果てに、「人間」に寄り添うことができたアルバム『HUMAN』はなぜ素晴らしいのか、3日連続公開のロング・インタビューで明らかにしていきたい。第1回は、『HUMAN』の制作へと向かう心構えと道筋について聞いた。
生命、生きる、生きてゆくことに寄り添ってきて、伝えようと思ってきた道筋が、『HUMAN』に込められた
――2ndアルバム『HUMAN』、素晴らしい1枚だと思います。聴いているといろんな感情が押し寄せてきてグルグルするんだけど、それがとても心地よくて、浮かんできたのが「生命力」というワードでした。HUMANは人間という意味だけど、生きることの意味を実感させる、明確なメッセージとしてではなく1枚のアルバムを通して「生きろ」と言われている感じがする。力強い生命力の塊がここにはあって、人を前に向かせる、一歩踏み出す力を与える、そういうアルバムになっていると思います。
ReoNa:まさに、この『HUMAN』にたどり着くまでに、生命、生きるとか、「生きてゆく」みたいなことはテーマになりました。今までお届けしてきた曲たちを見返したときに、ものすごく「生きること」に対して何かを伝えようとしてきたんだなと思って。1曲1曲ができ上がって、それから先にどんな曲を作れるかは常に未知数ですが、そのとき目の前にある作品や楽曲に、そのとき持てるパワーをもって全力で寄り添ってきたものをふと見返したときに、「生きる」「生きてゆく」が詰まっているのが、この2年半の楽曲たちだったと思います。
でも、おっしゃってくれたように、「生きろ」と言ってるのかというとそうではなく、ReoNaとしての芯には「手も引かないし、背も押さない。ただ寄り添う」があって、生命、生きる、生きてゆくことに寄り添ってきて、伝えようと思ってきた道筋が、この『HUMAN』には込められたなって、わたしもすごく感じます。
――アルバム全体を通して12曲聴くと、「生きろ」って言われてるような感覚だし、そういう強さがある。決して「生きろ」とはっきり言っているわけではないけど、アルバムとして結果的にそういうメッセージを帯びている、というか。
ReoNa:生きる、生きていくことを振り返ったときに出てきた言葉が「ヒューマン」「人間」で、すごく器の広い言葉だと思います。その中で、この楽曲たちから「生きる」ということが「ヒューマン」っていう言葉の器に注がれたアルバムになりました。
――本当に、『HUMAN』というのはとてつもなくデッカい器ですね。
ReoNa:はい、デッカい器です。
――それは、シンガー・ReoNaの器が大きくなった、ということにもつながっていると思います。直近のシングルである“Alive”しかり、昨秋のツアーを観させてもらったときも、「歌がデカくなったな」と感じていて。『HUMAN』という器にふさわしい大きさが、今のお歌にもあるんじゃないかな、と。
ReoNa:長く、デビューから今までお話をさせていただくたびに、「今回、これが初めてなんです」「今回これやったことなかったんです」「こんな発見があったんです」というお話をしてきて、この4年半の間にいろいろ経験してきました。それまでの人生では得てこなかった感情にたくさん触れさせてもらって、わたしという人間が、それまで歩んできた道とまったく違う人生を歩んだことで新しく得た部分は、ちゃんと広がってくれていると思います。
――特にこの1,2年は、新しい挑戦の連続でしたね。
ReoNa:それは、このアルバムにも詰まってると思います。“ないない”や“シャル・ウィ・ダンス?”も挑戦だったし、“Alive”ではアニソンで初めて作詞に参加させてもらって、広げてもらったし、広がらないといけないなって思いました。もちろん、それは今も思い続けてますけど、そこは『unknown』から『HUMAN』までの変化の中に表れているんじゃないかな、と思います。
――それだけに、本人的にも、全曲通してアルバムを聴いてみて、湧き上がるものがたくさんあったんじゃないですか。
ReoNa:この楽曲たちを全部曲順通り並べて聴いたのがマスタリングのタイミングで、わたしはずっと「自分のライブをお客さんとして見たいです」と言ってきたんですけど、それってどうしても叶えることができないことで。ReoNaとしてステージに立ってる以上、ReoNaのライブを自分は見ることができないジレンマがあったんですけど、この『HUMAN』を聴いたときに、その欲がちょっと満たされました。
ライブのセットリストのように、ストーリーを持って1曲1曲に込めた思いが、ひとつの物語のように『HUMAN』の中に入っていると思います。全体を聴き終えたときに、映画やライブを受け取ったときのような感覚がありました。きっといろんなタイミングでReoNaに出会ってくださった方がいて、知ってくださっている楽曲もあると思うんですけど。改めてアルバムとしてリリースする意味というか、この曲順にした意味を感じたし、曲順も含めて受け取っていただけたらいいなって思います。
――自分でも、聴いていてグルグルしなかったですか。
ReoNa:グルグルしました。グルグルしたし、アルバムの中には対になってる楽曲たちがあるので、この曲順で聴いて、ひとつ前の楽曲の解釈や見え方が変わってくる部分もあったりして。まさに……グルグルするってどう言語化したらいいんだろう? でもほんとに……グルグルしますね。感情が、すごく呼び起こされたんだと思います。
――わかりやすく名前がついた感情ではないものが、どんどん湧きあがってくる感じ。
ReoNa:その力はすごくあると思います。それはアルバムを通して持ってる力なのかな、と思います。
――たとえば、「この曲、切ないですよね」って言ったりするじゃないですか。でも『HUMAN』の楽曲には、「切ない」だけで説明できる曲が1曲もなくて。
ReoNa:確かに、一言で片づけられないと思いますし、だからこそ『HUMAN』なのかもしれないです。一言で名前をつけてレッテルを貼れるものではない感じはあります。
――1stアルバムの『unknown』でも「名前のない感情」はキーワードになっていて。「器がデカい」という話をしたけど、それってスケールが大きいから伝わるということではなくて、スケールは大きい、でも一対一の心理的な距離感や伝わる深度は、『HUMAN』でさらに増していると思うんですね。
ReoNa:まさに、いろんなことを経験させてもらったことによって、考えられる幅、想像できる幅もたぶん広がったんだと思います。絶望系アニソンシンガーとして、絶望に向き合い続けてきて、以前の自分は知らなかった絶望や、絶望と見なしていなかったもの、「こういうことが苦しいよね」「こういうことがつらいよね」って思うことの幅も広がりましたし、「絶望」に対する理解も深まって、そのグラデーションの種類も増してきたんじゃないかな、と思います。
そんな経験を持って、去年『De:TOUR』を回らせてもらって、たくさんの方との一対一をお届けさせてもらった上で、いろんな場所で、近い距離で、ライブの場を経験させてもらえたことも、この『HUMAN』に向かう中で大きかったと思います。
2018 年 4 月クールに放送された TV アニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中歌を歌う劇中アーティスト=神崎エルザの歌唱を担当し、「神崎エルザ starring ReoNa」として、ミニアルバム『ELZA』をリリース。ソロシンガーとしては、1stシングル『SWEET HURT』を2018年8月にリリース、2020年10月には、1stアルバム『unknown』を発表。2023年3月1日に自身初のアーティストブック『Pilgrim』を発売、同3月6日には初の武道館ワンマンライブを開催。5月からは、全国7公演をめぐるコンサートツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」を開催する。