コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、奇妙な笑顔のギプスをつけた男の子の物語『スマイルギプス』をピックアップ。
作者の山うたさんが3月3日にTwitterに投稿したところ反響を呼び、4.5万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、山うたさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
優等生がギプスをつける悲しい理由とは 正反対な少年2人の友情を描いた物語
小学生の山田ケンは、よく怒りいつも先生に注意されている問題児。ある日、教室に一人でいたケンは、クラスメイトの本間将太がいじめられてロッカーに閉じ込められていたところを助け出す。将太は家が金持ちで成績優秀、いつもニコニコ笑っていて女子にもモテる優等生。しかし、いじめられているにも関わらず“笑顔”の将太に、ケンは違和感を感じる。
なぜいつも笑っているのかを問いただすと、将太は「笑ってないよ」と言いながら顔から何かを外して見せる。それは、装着すると顔筋が勝手に笑うという特殊なギプスだった。しかし、それをケンがふざけながら奪い、将太が慌てて引っ張った勢いで一部が破れてしまう。ギプスがないと笑えないと泣き喚く将太に、ケンは“笑える方法”としていじめっ子への仕返しを提案し…。
本作では将太がギプスをつけている悲しい理由が明かされるとともに、いじめっ子への“仕返し”をきっかけにして正反対な性格の2人の間に友情が芽生える、というストーリーとなっている。Twitter上では「不穏な話かと思ったら良い話だった…」「あたたかい世界をありがとう」「素敵な笑顔」「感動した」「読後感さわやかで希望に溢れてる」「いい友情」など、読者からのコメントが多く寄せられ反響を呼んでいる。
「物語で人の心を動かしたい」作者・山うたさんが語る創作の裏側とこだわり
――『スマイルギプス』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
美大生時代(映像学科でした)脚本の授業がありました。教授の「登場人物の二面性を描くことで物語が発生する」という言葉が印象的で、実践を試みたのがこの『スマイルギプス』です。偽りの笑顔とその下の本当の感情を描くことで二面性を描けると思いプロットを進めました。
また、以前に描いた『角の男』という作品のキャラをもう一度書きたくて、スターシステム(同じデザインのキャラを転用する)を採用しています。感情豊かな少年と自分を抑えるそつのない少年が出会っておこる化学反応が好きなのです。
――本作では、ギプスをつけた将太の“笑顔”をはじめ、登場人物たちの感情あふれる表情描写も印象的でした。作画の際にこだわった点はありますか?
ギプスをつけた将太の笑顔の違和感を感じさせるために、ギプスを取った後の将太や他のキャラの表情がまっすぐ伝わるようにがんばりました。
――本作の中で、山うたさんにとって特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
泣いて怒った将太の攻撃をかわし、げんこついれて「百万年早ぇ」というケンのシーンが気に入っています。自分勝手な男の子というキャラが立っていて好きです。
――本作が収録されている短編集『天使にさようなら』では、他にも『クレイジーミント』や『まなみは僕のそば』など心温まる5つの物語が収録されています。短編集に込めた思いや「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
『天使にさようなら』以前の私の作品は残酷な表現が多いのですが、コロナ禍でみんな現実が辛いだろうから、ほっとするような作品を届けたいと思い筆を取りました。途中ハラハラすることもありますが読んで前向きな気持ちになる短編集です。
短編集には各話におまけ漫画や設定資料が載っていましてそれもまた暖かい内容ばかりですのでぜひ楽しんでいただければ!『スマイルギプス』のおまけ漫画も気に入っています。
――山うたさんはこれらの物語を創作する際、どのようなところから着想を得ていますか? また、創作活動全般においてこだわっている点や特に意識している点もありましたらお教えください。
最初の回答のように、構成的な視点から着想を得ることが多いかもしれません。それ以外から着想を得ることもありますが、読者の心を動かす仕組みとしての構成を必ずしっかり練っています。その仕組みを補強するように物語を広げていきます。私は人の心を動かしたいのだと思います。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
いつもありがとうございます。小さいころ、私なんかが漫画家になれるはずがないと人に言われてから、あきらめて映像業界目指したりIT業界入ったり、右往左往してました。全然ダメでした。
現在、漫画描いてばかりいる毎日が本当に幸せです。読んで支えてくださる皆様のおかげです。今後も作品を楽しんでいただければ幸いです。