コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、会話下手な少女が気になる男子との会話をチャットAIで行ってしまった結果を描いた『チャットボットに頼りすぎた話』をピックアップ。
作者のなまくらげさんが3月20日に本作をTwitterに投稿したところ反響を呼び、1.8万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、なまくらげさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
本当の自分はどこ…?予想外のラストに「いい意味で裏切られた」
中学1年生の少女・國部さんは会話が苦手なのがコンプレックスで、同じ部活の中屋くんへうまくメッセージを返信できずに悩んでいた。そんな時ふと見かけたものがチャットボットの広告だ。チャットボットはそれっぽい返信内容を作ってくれ、会話がつながった嬉しさから國部さんは会話のほとんどをチャットボットに頼るようになってしまっていた。
中屋くんとの会話も日課になった國部さんだったが、チャットボットにおまかせ返信を依頼したことで事態は急変する。自分の意志と関係なく中屋くんとの会話が弾んで終わっていたのだ。実際に会うと会話ができない自分とのギャップに悩み、チャットボットに「あなたに頼りきりで、自分を見失っています。どうすればいいでしょうか?」と問いかける。
チャットボットに悩みを打ち明けるうちに「わたしの今の気持ち」に気付いた國部さんは、中屋くんに今までのやり取りはほとんどチャットボットが作成したものだと打ち明けて謝った。それを聞いた中屋くんの反応は意外なもので…。
チャットボットによって自分を見失い、本当の自分も見つける少女の成長を描いた本作。Twitter上では「ほんわかした気持ちになった」「予想を裏切るオチ」「AIは使い方次第だな」「尊死した」「続きはどこ…?」「もうちょっと先の未来では普通にありそうでこわい」「青春だー!」など、読者からのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。
「哲学問題や死生観などの一端を漫画という形で出力する」作者・なまくらげさんが語る創作の裏側とこだわり
――『チャットボットに頼りすぎた話』を創作したきっかけや理由があればお聞かせください。
元々、私自身人と話すのがあまり得意な方ではないのもあって、代わりに話をしてくれるようなツールがあったらどうだろうみたいな話を以前から考えていました。しばらくしてチャットAIが話題になり始め、これは上記のツールとして使えそうだと思い物語の主軸に据えてみた形です。予想以上にぴったりハマってびっくりしました。
――本作では、チャットボットに頼ることで会話がスムーズに進む半面、自分の本心を見失ってしまうという対比が印象的です。なまくらげさんが物語に込めた思いやテーマがあればお教えください。
今回の創作にあたり「自分とは何か」というテーマを意識しました。今後AIによる代替が進んでいった時に、残る人間らしさとは何かといった問いです。AIの発展は創作界隈では悲観的に扱われがちなものの、それに対する人の存在意義、ひいては自分自身を見つめ直すきっかけにもなるのではないかと思っています。
――本作の中でなまくらげさんにとって特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば理由と共にお聞かせください。
主人公が 「何話せばいいかわかんない」と走り去るシーンでしょうか。便利ツールに頼りすぎて限界が来たことに気付き、どうしようもなくなって決壊してしまいました。人間らしさが出ていて好きな場面です。反面その後そこから現実逃避せず、家に帰ってからしっかり問題と向き合う強い子でもあります。見習いたいですね。
――なまくらげさんは、本作以外にも未来や幸福度が見えたり、3Dプリンターで友人が蘇ったりと実際ではありえない近未来的な設定の作品を多く描かれているようにお見受けします。どのようなところから着想を得て、漫画のテーマに落とし込んでいるのでしょうか。
普段から哲学問題や死生観など物事をあれこれ考えるのが好きで、最近ではその一端を漫画という形で出力しています。具体的には有名な思考実験から着想を得ることが多いですね。(今回でいえば「中国語の部屋」、それ以前では「ラプラスの悪魔」「スワンプマン」など)
現実から離れた設定になっているのは、せっかくフィクションを描くのだからという思いと、問いを際立たせる仮定として設定することで読者にテーマを考えてもらいやすくするためです。うまく機能しているといいのですが。
――なまくらげさんがこれから書いてみたいテーマや、今後の目標についてお聞かせください。
倫理的な問題に一歩踏み込んだ話や、少しニッチな哲学問題を題材にしたような話を描いてみたいです。とはいえこういったテーマは私自身としては好きでも、他の人にとってはしごく退屈だったりするので、そのギャップを埋めなくてはいけません。どうしたら硬くならず、わかりやすく、面白い作品になるか考えながら描いていきたいと思います。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
いつも自分の趣味嗜好にお付き合い下さりありがとうございます。日頃考えていることを一緒に思考できたらいいなという思いで描いているので、もし私の作品をきっかけに様々なテーマを知ったり、考えたりして頂けたらこの上ない喜びです。これからも色々描いていこうと思いますので、よろしくお願いします。