ドラマ「ガチ恋粘着獣」(ABCテレビ・毎週日曜夜11:55-/テレビ朝日・毎週土曜深夜2:30-)が4月8日より放送中だ。SNSを中心に話題を集める同名漫画の実写化で、3人組の人気動画配信者・コズミックと、彼らに“ガチ恋”するファンたちをめぐる人間模様を描くセンセーショナルな本作。ABCテレビ・辻知奈美プロデューサーにインタビューを行い、本作の見どころや裏話を聞いた。タレントへの"ガチ恋"と聞くとネガティブに捉えられがちだが、一見行動は過激でも、登場人物たちの心情には誰しもが共感できる、普遍性のある物語だと辻プロデューサーは語る。
「ガチ恋粘着獣」は“ハードなロミジュリ”?
――初めに、「ガチ恋粘着獣」をドラマ化しようと思った理由を教えてください。
原作がすごくおもしろかったんです。読み始めたら止まらず、一気に最新話まで読んでしまって。私自身はYouTubeを見るわけでも、特定の“推し”がいるわけでもないのですが、それでも登場人物に共感できてしまう魅力がありました。行動は予測不能で過激でも、そうなってしまう心情はわかるんですよね。だから推しがいる人なら、きっともっと共感できるんだろうなと思って、ドラマにしてみたいと思ったのが始まりです。
――具体的には、どんな部分に共感できましたか?
ガチ恋による過激な行動はダメですけど、テーマとしては、手の届かない人を本当に好きになってしまったとき、どうしたらその人に想いを伝えられるかという話だと思うんです。この作品では画面の中の相手ですが、たとえば学校のクラスメイトでも心情的には同じ。相手の言動に一喜一憂したり、どうしたら好きになってもらえるか悩んだりという感情の動きはよく理解できました。同時に、コズミックのメンバーがガチ恋ファンを怖いと思う気持ちや、動画配信者という不安定な仕事に対する不安といったところも表現されています。ドラマでは雛姫と琴乃を主人公という形にしていますが、誰もが主人公と言えるくらい、皆の気持ちが丁寧に描かれているのも原作の魅力だと思います。
――確かに、キャラクターの個性も強く、群像劇的なところのある原作です。今回のドラマ化ではどのような描き方になるのでしょうか?難しかったところは?
原作のどの部分をドラマ化するかに一番悩みました。原作だと大きく分けて(コズミックの3人それぞれにフォーカスが当たる)3部構成ですが、30分ドラマ10話という尺は決まっていますし、原作が完結していないので、それを全部描き切ることは難しい。でもスバル・雛姫編、コスモ・琴乃編の中でギンガの存在感が薄くならないように、時系列を調整して(本来コスモ・琴乃編の後に登場する)ミツクリを、琴乃の物語に並行して登場させるような形をとっています。これは原作者の星来先生にもご相談しました。
――原作は絵柄や見せ方の表現など、かなり特徴的なインパクトがありますが、ドラマにする際に意識した見せ方の工夫はありますか?
キャラクターの見た目については、それぞれの大切な要素は残しつつ、コスプレにならないように、「本当にこういう人いるよね」というラインを探りました。
演出面については、まずバイオレンス要素はこの作品の魅力のひとつでもあると思うので、なくしたくなかった。朝倉(加葉子)監督はバイオレンスやホラー要素を描くのが得意な監督で、ドラマ化が決まってすぐにご相談しました。実物の人間が取っ組み合う画はリアルで、エネルギーがすごいです。
――以前星来先生にインタビューした際、「『バカな人間がくだらない仕事(配信)ごっこ、恋愛ごっこして自業自得で破滅した話』で終わらないことを目指しています」というお話がありました。辻さんは「ガチ恋」にどんな感想を抱いていますか?
推しに対して本気で恋をしてしまう、それ自体は悪いことではないですよね。もちろん相手を傷つけるのはダメですが、それは普通の恋愛でも同じ。誰を好きになるかの違いだけだと思うんです。登場人物を見ていると、普通の恋愛以上に幸せも嫉妬も苦しさもあって、そもそも出会える確率も低い、難易度の高い恋というか…“ハードなロミジュリ”みたいな。ただ、このドラマを見たことで「ガチ恋って叶うんだ!」と思ってほしくはない(笑)。つまり物語としてはファンタジーですが、きっと皆さんも感じたことのある感情が入っている、そういう意味では身近なお話になっていると思います。
琴乃役・石井杏奈に「こんなにきれいに顔が引きつる人いるんだ」
――では各キャストについて、キャスティングの決め手や撮影での様子など教えてください。まずはコズミックのスバルにガチ恋する女子大生・輝夜雛姫役の香音さん。
雛姫は、学校で友だちに見せるかわいらしい女の子の顔もあれば、人に隠している部分では過激な感情をあらわにしたり、いろいろな顔を持っている女性です。香音さんは「ティーンがなりたい顔No.1」にも選ばれていて、華やかでかわいい方なので、かわいらしいキャラクターを演じる姿は想像できるけど、彼女が感情を昂らせた狂気的な表情も見てみたいなと思ってお願いしました。香音さん自身も推しがいたことはないそうですが、撮影前からスバル役の井上想良さんの写真などを見て気持ちを高めてくれていて。本作では初顔合わせの本読みから涙を流すくらい、雛姫として生きてくれていました。
――コンセプトカフェ勤務で、コズミックのリーダー・コスモにガチ恋している花織琴乃役・石井杏奈さんはいかがですか?
石井さんのお芝居が好きで、いつかご一緒したいと思っていました。これまでは穏やかで少し可哀想な役どころが多いイメージですが、琴乃の第一印象は穏やかに見えるけど内に激しいものを秘めている役。そういう石井さんの表情を見てみたくて。撮影した映像を編集していると「こんなにきれいに顔が引きつる人いるんだ…」と驚くほどでした(笑)。コスモくんへの愛ゆえに顔と心が歪んでしまう、その感情の出力が素晴らしいので、楽しみにしていただきたいです。
――雛姫と対立するスバルのガチ恋オタク・りこめろ役は中田クルミさんですね。
りこめろはキャラクターの中では年齢も上で、社会人。ガチ恋って学生だけじゃなく、年齢問わずみんなが陥る可能性があるということを表現する上で、りこめろ役はすごく大事だと思っていました。あの衣装をファンタジーにならず、現実に落とし込む形で着こなせるのがまずすごいです。撮影でも13cmヒールのブーツで取っ組み合いしてくださって。りこめろを、好きな服を着て好きなものを追いかけている素敵な女性として演じてくださいました。
――コスモにガチ恋して厄介な行動をとる女子高生・ゆっこ役は志田こはくさん、琴乃の友人で作中唯一ガチ恋でないオタク・奈緒役は小島藤子さんが演じています。
ゆっこはある意味、純粋なキャラ。やっていることは犯罪ギリギリではあるんですが、でもゆっこからしたら、自分の好きな人であるコスモくんに頑張ってアピールしているだけ。その天真爛漫な部分と危うさを見事に表現してくださいました。いい意味でめちゃくちゃ腹が立つ(笑)。
奈緒ちゃんは実写にしたときのイメージが難しくて。サバサバした感じ、愛ある冷たさ、友達にしっかり怒れる勇気のある女性というところで考え、私が大好きだった小島さんにお願いしました。あと雛姫には、りこめろとの関係性はありますが親しい友達が出てこないので、奈緒と琴乃の友人としてのやり取りが新鮮でしたね。