長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は知られざる深夜のお仕事に密着するドキュメントバラエティー「朝メシまで。」(毎週土曜夜24:30~25:00、テレビ朝日系)をチョイス。
夜のプロフェッショナルたちの特権をのぞき見「朝メシまで。」
たとえば駅のホームで電車を待っているとき、作業服を着た人たちが列になって線路を歩いていたりすることがある。または、国道の中央分離帯にいて何かの作業をする人たちや、見上げるような高所で作業をする建設作業員、彼/彼女らの姿はなじみ深いものであるが、しかし、風景のひとつというほどに当たり前ではなく、少なくとも、一般の我々には踏み入れることのできない領域に居て、労働にあたっているその姿に毎度、何某かの驚きをもって存在を認識しているような感覚がある。まるで、オープンワールドのゲームにおいて、通常プレイでは行けない崖の向こうの高台に、バグ技を使って立っているプレイヤーを見たような感覚、とまで言うと大袈裟かもしれないが、やっぱり線路を歩いてる人って、頭では仕事なのだと分かっていても、「うわ、居る」と驚かずにいられない。
何のことはない、立ち入っちゃいけませんよという場所に人がいるから驚くというだけなのだが、しかしその姿が、どうも神々しく映ってしまうのだ。まったくもって正当な理由で線路に立ち入っている姿は、その正当さと表層的な違背のインパクトによって、完璧に線路を掌握しているように見える。彼/彼女らは、紛れもないプロフェッショナルであるのだと。これがどうもクセになるというか、そんな姿を見つけると、少し得をしたような気分になったりもする。そして、線路で何をしているのだろう、と遠巻きに眺めることしかできないそのプロフェッショナルの実態に興味がわいたりもする。
『朝メシまで。』は、夜勤として働く人たちに着目し、人々が眠っている間に行われている仕事の実態、そして”1日の締めに食べる朝ごはん”に密着する番組。4/22の放送回では、多摩モノレールの分岐器のメンテナンスに従事する作業員の方たちに密着。終電から始発までの数時間の間に、視覚や聴覚を頼りに分岐器の異常を察知しながら、300~400の可動部分のある分岐器の保全作業にあたらなければならない、時間的な制約に加え、ごく繊細な察知能力を求められる、厳しい仕事である。その実態についてはぜひ本編を見ていただきたいと思うのだが、私が興奮したのは、前述のとおり、国道の中央分離帯にチームが作業服姿で入っていき、専用の階段を上って、モノレールの分岐器の上に直接立つ姿だ。
中央分離帯に設置された階段は、これまでにも見た記憶はあるし、そもそも階段なのだから当然、人が上るために作られているはずなのだが、「うおっ、中央分離帯、入っちゃっていいの?」とワクワクせずにいられない。でも、入っちゃっていいのである。それがプロフェッショナルの特権なのだ。そもそも、分岐器のメンテナンスで分岐器に行くというのも良くて、メンテナンスをするものの上に立っているという事実。何というか、ドラゴンと戦う主人公が、そのドラゴンの背中に乗って戦ってるみたいな感じ…さっきからたとえが幼稚で本当に申し訳ないんですが…。
町にある高い鉄塔なんかには頂上までハシゴがついてたりしてて、きっとめまいのするような高さ、誰かが上ってるところは見たことないけど、ハシゴということは人が上るって想定してるに決まってるし…とか考えて怖くなって、そこから、東京タワーってどう作ったんだよ…とか、牛久大仏ってコワすぎだろ…とかのんきに考えてたらなぜか田口トモロヲのwikipediaとか読んでたりしてて、気付いたら朝になっていて袋麺を食べる。これが私の”朝メシまで”である。