長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は5/1に放送されたSP番組「クイズ~偽流行語流布ゲーム~」(テレビ東京)をチョイス。
流行り言葉と恥ずかしさ「クイズ~偽流行語流布ゲーム~」
1791年、アイルランドの劇場支配人デイリーは、ある新しい言葉を流行らせることができるかという賭けを友人と行い、街中のいたるところにその言葉を書いた。すると、言葉はたちまち話題となり、ついには世界中で使われるようになる。その言葉こそ、『クイズ』である…という興味深い一説から始まるこの番組は、四千頭身が、自らの考えた言葉を流行らせようと奔走するドキュメンタリー番組だ。前回放送はネット配信のオリジナル番組であったのだが、今回は地上波での特番。四千頭身本人が動いていた前回に対し、今回は司令塔として”スパイ”を集め、その言葉を流行らせようとする。
その言葉は、『スケさん』。「スケジュールの都合上参加できません」の意である。ちなみに、対義語は『カクさん』で、「確定で参加できます」の意。日常使いのしやすい言葉であるだろう。
この番組における”スパイ”とは、企画の目的を理解したうえで、”スケさん”を流行らせようと動く人たちだ。若者に人気のインフルエンサーたちが、”スケさん”の浸透度を深めていく。司令塔・四千頭身と、100名以上のスパイが集まり、流行を作り出す準備は整った。
その気になる結果は是非放送を見ていただけたらと思うのだが、街中でステッカーを配ったりアドトラックを走らせたり、比較的アナログな方法で喧伝する作戦を取った前回放送の結果は失敗に終わっている(私は未見)。これは、何となく分かる。この”スケさん”という言葉、パッと聞いただけでは意味が分からないし、”すけさん”という響きだけでは、それこそ助さんもそうだし、資さんうどんとかもあったりして、造語としてまっすぐ入ってこない。誰もが、意味とセットで覚えなくてはならないというのは、相当な弱点なんじゃないだろうか……とはいえ『蛙化現象』も同じようなものだし、やはりデジタルな喧伝というのか、動画や短文で意味とセットで伝えられるSNSのほうがこの”スケさん”に合っているとは思うのだが、はたしてその結果は…。
企画の趣旨やドキュメンタリー性に四千頭身の朴訥なキャラがマッチしていて、すごく面白い番組であった。なるほどこれは四千頭身の番組だな、という、彼らにしか出せない味わいがあって、ぜひ続編にも期待したいところ。めちゃめちゃ同世代なので、応援しています。
ここで急に自分の話をしますが、私はずっと、こういう流行り言葉みたいなものを口にするのはどうしても憚られてしまうというか、恥ずかしいと思ってしまう部分がある。それは「自分はもう若くないから」みたいな感傷じゃなく、たとえば「ワンチャン」という言葉はずっと使いたいと思っていて、あれ便利でしょ、使えたら絶対良いと思うんだけど、それでも使えないのは、意味があるから。「ワンチャン」を使うには、然るべきタイミングというものがある。それが困る。「ワンチャン」という言葉をただ口にするだけならまだしも、”適切なタイミング”に差し込んでいる、という客観的事実が、たまらなく自分を恥ずかしくさせるのである。これは「スケさん」にも同じことが言える。意味は邪魔なのだ。意味があると、適切なタイミングというのが生まれる。適切さ、というものには、いかなる遊び心も介在しておらず、こういう若い世代の造語というのは、あらゆる文法から切り離された、ほとんど意味のない言葉であってほしい、と思ったりもする。既存の文法の、代替可能なある一部分に代わりに差し込んで使う言葉、というのがどうも恥ずかしい、だから「ぴえん」いいよね、感情表現なんだから、適切なタイミングとかも別に無い。ひじきを見て言ってもいい。「エモい」も良い。明確な定義が曖昧で、妙に空白があるのが良い。何に言っても成立するし、いつ言ってもいい。薬局でスポンジが安く売られていたらエモいし、トイレが詰まってもエモい。「チルい」も同じく、空白的な魅力のある言葉。明確な定義はたぶんあるんだろうが、感情表現の一種だし、まあ別にいつ言ってもいい、というのが素晴らしい。つまるところ、私は鳴き声を求めている。
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