声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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公演中の楽屋が同じだった南沢奈央さんと好きな本のジャンルの話になった。
私は本編をじんわりと噛み締めながら自分の場合の答えをゆっくり読了後に考えられる作品が好きだと話したら、次の日に奈央さんがおすすめの本をプレゼントしてくださった。
今回紹介するのはその中の一冊、凪良ゆうさんの「流浪の月」だ。映画化もされているので読んだことがある人、映画を観て内容を知っている人は多いかもしれない。公演中ということもあり読書から少しだけ遠ざかってしまっていたが、あまりの面白さに1日で一気読みしてしまうくらいで、本を読む楽しさを一瞬にして思い出させてくれる作品だった。
本作は世間的には誘拐された女の子と誘拐した男子学生という認識の二人が大人になり、再び出会うことで15年積み上げてきたそれぞれの日常が脆く崩れていく様子が描かれている。
近年ではSNSが身近になり、一つのトピックについて実名を公表せずまるで専門家が意見を述べるかのように自己の意見を書き綴る機会が増えてしまっているように感じる。投稿している本人はこれまで自分が歩んできて得た"優しさ"ゆえの言葉達かもしれないが、優しさと偽善の違いってなんだろうか。そう考えさせられる作品だった。
作中に何度も「真実と事実は違う」という言葉が登場する。真実というのは当事者本人にしか知り得ないことだし、それは当事者の人数がいればその人数分の真実が存在してしまう。そして又聞きした話をメディア側が真実と認めたものが事実として扱われてしまう。じゃあどうすればいいんだ。逃げればいいのか?逃してすらくれないのか。八方塞がりの様子が丁寧に苦しく綴られていて、読んでいるだけで息がしづらくなる経験は初めてだった。誘拐事件に関わった側の人間、あるいはその事件を憐れむ側の人間どちらに共感を覚えるかによって本作の見え方はきっと違うのだと思う。
何かの事件に巻き込まれたり、自分よりも大変な経験をしている人を勝手に"可哀想な人"というレッテルを貼ってしまっていないか、自分の価値観で、物差しで、「この人は大変な経験をして可哀想だから優しくしてあげなきゃ」という偽善的な考えになっていないか、読み進めながらそう問いかけられている気がした。
私自身は誘拐事件に関わった人たちの心情に共感したこともあり、誘拐された女の子の勝手に可哀想と思われている感覚や周りのレッテル通りに無理矢理人生を方向転換させられ、自分を見失う姿に心が痛くなってしまった。自分よりも他人のことを気にして、「この人はこう」というイメージを押し付けるということは無意識的に人は行ってしまうものなのかもしれない。
これの対処法があるのかと問われると、ハッキリとこれが対処法ですということすら偽善になってしまうかもしれない。だが、小学生の頃から言われている「相手の話をちゃんと聞く。そして受け入れる」というのは大人になるにつれて段々とできなくなっていってるのかもしれない。
優しさについて考えさせられる、胸に衝撃が刺さる作品に出会えた。
もう一度開くには勇気が必要だが、道に迷いそうになったらこの本を私は開きたい。そして、今夜の夕飯にアイスクリームを食べたくなる、甘くて罪悪感がある本作を是非堪能してほしい。
https://ddnavi.com/serial/sato_hinata/
佐藤日向(さとう・ひなた)
12月23日、新潟県生まれ。
2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な出演作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、
『ラブライブ!サンシャイン‼︎』(鹿角理亞役)、『D4DJ』(福島ノア役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(暁山瑞希役)、『ウマ娘 プリティーダービー』(ケイエスミラクル役)など。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。