コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、吉本ユータヌキさんの漫画「あした死のうと思ってたのに」。
作者である吉本ユータヌキさんが6月13日にTwitterに本作を投稿したところ、12.6万件を超える「いいね」が寄せられた。本記事では、書籍「気にしすぎな人クラブへようこそ」を発売中の吉本ユータヌキさんに、作品のこだわりなどについてインタビューをおこなった。
自死願望のある男性が友人と向かった先は…
主人公の男性は翌日に自死をしようと思っている。この後自死の方法を見つけるためホームセンターに寄ると聞いた友人は、最後のご飯に誘う。ご飯を食べている途中、友人と翌週もご飯を食べる約束をした。主人公はホームセンターに寄る予定を来週に伸ばすことになった。友人は会うたびに予定を入れてくれたが、実は友人自身も心に大きな傷を負っていたのだった…。
作者である吉本ユータヌキさんがTwitterに投稿したところ、「泣いた」「素敵」「気が楽になった」「大切な何かに気づきました」などの多くのコメントが寄せられている。
「傷に苦しんでいる方が変わろうと思ってくれたら」作者・吉本ユータヌキさんが漫画を描く理由
――「あした死のうと思ってたのに」を創作したきっかけや理由があればお教えください。
ぼくは伊集院光さんの考え方や話を聴くのが大好きなんですけど、去年、伊集院さんが麒麟の川島さんのラジオ番組に出演されていた時に、「嫌なことがあっても、“来週の伊集院のラジオを聞くまでは頑張ろう!”と、とりあえずの目標になれたらと思っています」と話されていたのを聞いて、自分もそうやって音楽に生かされてきたなと思い出したのがキッカケです。
17歳の頃、人付き合いが苦手で、学校で友達ができなかったり、両親の仲が悪くて、家にいることがしんどかったりして、当時11階に住んでたんですけど「ここから飛び降りたらイヤなこと全部なくなるかな」って思ったことがあったんです。でも、ぼくにはそんな勇気がありませんでした。そんなことを考えてる時期に、バイト先の先輩に青春パンクロックというジャンルの音楽を教えてもらい、正面から応援してもらえるような歌詞に「自分も生きてていいのかも」と思わせてもらい、バイトで稼いだお金を持って、毎週タワレコにCDを買いに行く楽しみができました。ぼくはそんな楽しみに、命を繋いでもらったと思っています。
それから20年経った今、もう死にたいと思うことはなくなったんですけど、今でも当時を思い出して、ちょっと息苦しくなることがあったんです。そんな記憶を頭から削除することはできないけど、自分が漫画として吐き出すことができたら、記憶の形を変えられるんじゃないかと思って描くことにしました。ちなみに、全部描き終えた今思うのは、苦しかった過去を変えることはできない。でも、そんな経験があったから、今この漫画が描けたんだなと思えたことで、少しだけ気持ちが消化されたような気がしています。
――「あした死のうと思ってたのに」を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
終盤のセリフのないシーンです。下書きの時はキャラクター2人の心情や葛藤をたくさん文字として入れてたんですけど、清書の時に全部なくそうと思い、この形にしました。今までは自分のどうしても伝えたい・こう読んでもらいたいという形があって、その通りに伝わってないとダメだって思ってたんですけど、生きる理由とか、喜ぶことも悲しむことも、涙を流す理由も人によって違うので、自分の価値観を押し付けず、読んでくださる人たちに、それぞれの解釈で読んでもらえたらと思ったからなんです。
――「あした死のうと思ってたのに」の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
1話目の2コマ目、ロン毛の子の「そっか そっか」です。この話は、死にたいと思った17歳のぼくには、気持ちを打ち明けることができる人がいなかったか、”こんな友達がいたらよかったな”を描いた話で、「そっか そっか」はぼくが言ってもらいたい言葉なんです。読んでくださった方にも、友達に「あした死のうと思って」と告白された時、自分ならなんて返事するだろう。逆になんて言われたいだろう…と考えてみてほしいなと思っています。
――「あした死のうと思ってたのに」や「気にしすぎな人クラブへようこそ」など、辛い心が楽になるような作品を多く描いていらっしゃいますが、理由があればお教えください。
「あの時に今の考え方ができたら、あんなに苦しんでなかったのに」と思うことがたくさんあるんです。心の傷のようなものが。今から過去を変えることはできないですし、昔ついた傷の跡はどんなことをしても消えることはなくて、ずっと付き合っていくしかないと思っているので、せめてその傷を眺めて「そんなこともあったよな」って笑えるものに、ちょっとでも変えたくて、自分は漫画を描いています。
それを発信していく最中で、ぼくと同じように自分自身の傷に苦しんでしまってる方が立ち寄ってくださって、何かに気づいたり、変わろうと思ってくれたら、それ以上嬉しいことはないと思っています。
――今後の展望や目標をお教えください。
「あした死のうと思ってたのに」を描いて、死にたいと思っていた頃の自分が欲しかったのは『居場所』だったんじゃないかと気づいたんです。苦しい気持ちを聞いてくれる人だったり、安心を得られるような場所だったり、孤独を忘れさせてくれる瞬間を求めてたんだと思います。なので、孤独を感じていたり、自分だけが…と苦しんでる方が、ちょっとでも「あした死のうと思ってたのに」と思えるようなものを作っていきたいと思っています。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
楽しみにしてくださって、ありがとうございます。これからも、ぼくなりにぼくの思うものを形にしていきたいと思っているので、楽しんでもらえると嬉しいです!