コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、家畜の伝染病である“口蹄疫(こうていえき)”の実態を描いた漫画『口蹄疫について』をピックアップ。
作者である牛川いぬおさんは、実際に牧場で働きながら酪農に携わる一方で、牛の魅力を漫画やコミックエッセイとして日々発信し話題を集めている。牛川さんが5月28日に本作をTwitterにて公開したところ、2.7万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では牛川いぬおさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
2010年に発生した宮崎県“口蹄疫” 実態を描いた漫画に「胸が締め付けられる」
テレビ画面に映し出された映像は、石灰で真っ白な道路と真っ白な農場。2010年4月20日、宮崎県で口蹄疫が発生し、同じ九州圏内に住む牛川いぬおさんも当時ショックを受けたと語る。
口蹄疫とは、牛や豚、羊などの偶蹄類動物が感染する伝染病。主な感染経路は空気感染と、ウイルスに汚染した動物や物からの接触感染だ。感染した偶蹄類は発熱し、口腔内や舌、蹄に水疱が現れ、餌を食べられなくなるほか歩行困難や発育不良などに陥ってしまう。明確な治療法はなく、一度感染が発覚すると農場内の家畜は症状の有無に関係なく全頭が殺処分となってしまうという経済的損失の大きい伝染病だ。
しかし、宮崎県の口蹄疫では発生した農場の家畜を全頭殺処分し、人や物の移動制限を行なってもウイルスを抑えきれず感染は拡大。そのため、当時の政府は発生農場から半径10キロ圏内の全ての家畜を殺処分することを決定。同年8月27日に終息するも、その経済損失額は畜産業のほか観光業も含め2350億円にのぼり、殺処分となった家畜は29万7808頭にも及んだ。
牛川さんが口蹄疫について勉強会で聞いた話をはじめ、関連書籍や記事などを元に、その知られざる実態を描いた本作。実際に防疫作業にあたった作業員たちや畜産農家の葛藤や苦悩、そして目を覆いたくなるような殺処分の有様についても本作の中で詳しく描かれている。
さらに、伝染病の元となるウイルスは人や物に付着して運ばれることから、漫画の最後は「畜舎や牧草地に無断で入らないでください」「消毒槽や消毒マットがある場所では必ずその上を歩いてください」という牛川さんの切実な願いで締めくくられている。
Twitter上では「胸が締め付けられる」「あまりにも惨い…」「すごく勉強になりました」「これからの危機感が募る」と多くの声が集まった。また、宮崎県に住む当時を知る読者や酪農に携わった経験のある読者からは「当時を思い出し涙が止まりません」「もっと広く知られてほしい」「二度と起きてほしくないです」「家畜だと軽んじるのではなく、どうか色々な方たちも考えて欲しい」など声が寄せられ、反響を呼んでいる。
“知ってほしい”思いを漫画に 作者・牛川いぬおさんが語る創作背景とこだわり
――牛川いぬおさんが漫画を描き始めたきっかけは何ですか?
私は酪農家ではなく、牧場に勤務するただの従業員です。牛が好きで酪農に就職しましたが、漫画を描くのも好きで、牛の面白いところや魅力をなんとなく描いてSNSに載せてみたところ、色んな方から反応をいただけたのがきっかけです。
――2010年に宮崎県で口蹄疫が発生した際の実情を描いた『口蹄疫について』ですが、牛川さんが本作に込めた思いを教えてください。
2023年5月、コロナが5類に移行し海外からの観光客が増えていることを、日々の生活の中で実感していました。そんな中、韓国で4年ぶりに口蹄疫が発生したとニュースが流れてきて、とても強い危機感を感じました。
2010年の宮崎口蹄疫は、私の中でも未だに忘れられないほどショックな出来事でしたので、SNSで「口蹄疫って何?」「心配しすぎ。日本に入って来ないでしょ」と楽観視する意見を目にして、「どうにか口蹄疫について知ってもらえないだろうか」という気持ちでこの漫画を描きました。
――本作をTwitterに投稿後とても大きな反響があり、読者からも多くのコメントが寄せられています。今回の反響について、率直なご感想をお聞かせ下さい。
沢山の方に読んでいただき、ありがたい気持ちでした。印象的だったのは、当時、口蹄疫が発生した地域で暮らしていた方、ご家族が口蹄疫終息のため現地で働いていたという方からのコメントです。具体的な当時の様子を書いてくださり、私にも学びがありました。
一方で、つらい記憶を思い出させてしまった方もいて、この漫画は描いて良かったのか?もっと良い描き方があったのではないか?と今でも思い出しては反省することがあります。
――実在する感染病についてを漫画として描き上げるうえでこだわった点や特に意識した点はありますか?
過去に何度か「伝染病予防のため畜舎に無断で立ち入らないでください」と注意喚起の漫画を描いたのですが、「注意して下さい」「気をつけて下さい」だけでは、聞き流されてしまうと実感していました。そのため大事に保管していた2010年当時の記録を元に、どれだけの被害がでたのか分かりやすく、更に具体的に描く事を意識しました。
――牛川いぬおさんは本作以外にも、2022年4月に制作した漫画『牛乳をPRする漫画を描きたかったけどかけなかった』や『毎日、牛まみれ』など、酪農にまつわるコミックエッセイを描き話題を集めています。創作活動全般においての牛川さんのこだわりや「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えてください。
牛の面白いところ、可愛いところ、怖いところが伝わるよう、牛の魅力をきちんと描きたいといつも思っています。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
度々ニュースで流れる鳥インフルエンザ、豚熱、そして口蹄疫と、家畜にも恐ろしい伝染病があります。家畜の伝染病が発生してしまうと、畜産農家だけでなく消費者の食卓にも大きな影響が出てしまいます。畜舎や牧草地を見かけても、無断で立ち入らないようお願いいたします。
そして、農家も牛も毎日頑張っていますので、国産の牛肉や牛乳、乳製品をどうぞよろしくお願いいたします!