コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、作者・黒竹ゐひさんによる『いつかあの凧の下で』をピックアップ。
迷子になった子供が、不時着した世界で見知らぬ大人達と出会う物語が「心温まる」と話題の本作。作者が5月30日に本作をTwitterに投稿したところ、その不思議な世界観にも反響が集まり1.3万以上の「いいね」が寄せられた。この記事では黒竹ゐひさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
怪しいけど親切な大人達との出会い 独特な世界観とキャラクターも話題に
グリフォンであるコノハはまだ子供のため翼が発達しておらず、いつも飛空機を使って移動していた。しかしこの日は燃料を入れ忘れて飛び立ってしまい、空から勢いよく落ちてしまう。
街中に運よく不時着できたコノハだったが、地上に初めて降り立ったことから不安になっていた。両親に連絡しようか悩んでいたところ、突然背後に怪しい者が現れる。そこには「こっちにおいで」と声をかける、ぐるぐる回る目玉と長い舌が印象的な勘兵衛と、黒子の姿をした峯(みね)がいた。
怪しい風貌に恐怖を感じ、緊急通報システムを作動させようとするコノハ。それに焦った勘兵衛と峯が身分証を見せると、徐々に落ち着きを取り戻す。話を聞く中で2人が自分を助けに来てくれたのだと知ったコノハは、勘兵衛が営むラーメン屋台に行くことになるのだが…。
住む世界が異なる者たちの心温まるふれあいを描く本作。怖い話かと思いきや、予想外のハートフルな展開も話題を集め、Twitter上では「優しい福送り」「人情を持つ登場人物たちにほっこり」「優しさと逢魔時のぞわりとする感じが渾然一体となっててすごい」「世界観好きすぎる」「無性にラーメン食べたくなってきた」など多くの声が寄せられ、反響を呼んでいる。
「作品は自身の趣味嗜好とデザインを煮詰めた“佃煮”のよう」作者・黒竹ゐひさんが語る創作の背景とこだわり
――『いつかあの凧の下で』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
2021年に「近未来」「大人とコドモ」「約束」をテーマとしたアンソロジーに参加させていただいたことがきっかけです。仕事で酷く疲れては美味しいと感じる食べ物にたくさん元気を貰っていた時期でもあったので、食べ物を通じて元気になる話を描こうと思いました。
また、数年前に東京の某所で年季の入ったラーメン屋台が大胆にも道端に放置されていたのを思い出し、舞台が決まりました。
――本作に登場するコノハや勘兵衛などの個性豊かなキャラクターは、それぞれどのように生み出されたのでしょうか?
自分自身の趣味嗜好を調味料にデザインや性格を煮詰めていきました。
キャラクターのシルエットから段々と詳細を確定していく中で、互いの性質が繋がり始めます。今回は最終的にアフリカオオコノハズク、横須賀凧のべっかこう、少し珍しいお堂、そして岩手県の伝説が佃煮となりました。
――本作の世界観を創り上げるうえでこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがあれば教えてください。
テーマの一つが「近未来」ということで、本作では文明が発展した世界で褪せてもなお残り続けるものを舞台の中心にしています。そういったものは作中の世界においても怖い・古臭いと感じる者もおりますが、誰かにとっては懐かしく、特に今も生きているものはその“誰か”達に根強く愛されてきたものであると考えています。チェーン店が撤退していく中で、今日に至るまで看板の灯りがひそりと光る店は、多少汚かろうがイイんですよね。
登場キャラの性格も含め、様々な形でしれっとそこに在る愛情を見ていただければと思います。
――作画においては白と黒のコントラストがとても印象的で、黒竹ゐひさんのこだわりを感じました。作画の際にこだわった点や特に意識した点はありますか?
ミリペンと筆ペンで絵を描いていた時期の絵がパワフルでお気に入りのため、デジタルでもこれに近い雰囲気を出せるよう意識しています。
――黒竹ゐひさんは本作以外にもファンアートやオリジナルの1枚絵などを多く描かれていますが、どれも独自の世界観に溢れていて魅力的です。これまでに影響を受けた作品とあわせて、今後の展望や目標がありましたら教えてください。
特に平本アキラ先生の『俺と悪魔のブルーズ』(講談社)は、緊張と安堵の緩急、カメラワークや場面転換の格好良さ、そして台詞回しに長年痺れ続けており、一生の憧れです。
まだまだ表現力が不足している点は自身の伸びしろと捉え、可笑しさと怖さが同居していてどちらにもしっかりと転んでいく漫画をドロリと出力していきたいと考えています。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
この度は本作を読んでいただきありがとうございます!これからも材料の分からない佃煮のような何かを作り出していきますので、その時は「また何か出たな」と面白がっていただけたら私は嬉しいです。怪しさに磨きをかけ、精進いたします。