佐藤浩市と横浜流星がW主演を務める映画「春に散る」が8月25日(金)に公開される。不公平な判定負けを喫して渡米し、40年ぶりに帰国した元ボクサーの広岡仁一(佐藤)が、同様に不公平な判定で敗北したボクサー・黒木翔吾(横浜)と偶然出会い、ボクシングを教え挫折からの再起を図っていく物語だ。原作は沢木耕太郎の同名小説、監督・脚本は「護られなかった者たちへ」などの瀬々敬久が務める。このたび横浜にインタビューを行い、本作でボクシングのプロテストに合格するほど突き詰めた役作りや、自身の挫折とそれを乗り越えた経験について聞いた。2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」での主演も決定し、映画・ドラマに引っ張りだこの横浜だが、かつては「この世界で生きていくと決めたことは合っていたのか」と悩んだ時期もあったという。
俳優になっていなかったら格闘家の道に進んでいた
──最初に映画「春に散る」の脚本を読んだときの率直な印象を教えてください。
翔吾と仁一が出会って再挑戦する姿にすごく勇気をもらいましたし、いち格闘技ファンとしてボクシングシーンは、台本を読むだけでも心が燃えました。だからこそ生半可な気持ちではできないと思い、最初は出演することに迷いがあったのですが、プロデューサーの星野(秀樹)さんから熱い想いが込められたお手紙をいただき、求められることはうれしいですし、自分はこの世界に進んでいなかったら格闘家の道に進んでいたと思うので、格闘技を盛り上げるお手伝いができるならと思い、最終的に出演を決めました。
──横浜さんのキャスティングは瀬々敬久監督の希望だったと伺いました。瀬々監督との作品作りはいかがでしたか?
すごく寄り添ってくださる方だなと思いました。映画の撮影は12月からだったのですが、ボクシング練習は4月から取り組み始めていて、監督に何度も見に来ていただきました。そういったところからも作品への熱量を感じることができましたし、脚本も準備稿の段階から見せていただいて「ここどう思う?」という話し合いを撮影前から行っていました。僕の意見も柔軟に聞き入れていただけて、すごく僕ら俳優の味方でいてくださる方だなと感じました。
──瀬々監督と脚本を練る中で横浜さんから提案したアイデアも?
はい。ボクシングの入場シーンは絶対に入れてほしいとお伝えしました。
──それはどういった意図からですか?
格闘技が好きで見ているのでわかるのですが、入場のとき、選手の顔や雰囲気で、その試合にかける想いが伝わってくると思っていて。そういうものを知っていたからこそ、入場シーンで翔吾の想いも表現したいと思ったし、単純に自分が入場してみたかったという願望もありました。
「これだけ本気でやった」意思表明としてプロテストに挑戦
──ボクシングの指導・監修は松浦慎一郎さんが担当されました。松浦さんのトレーニングを受けて感じたことはありますか?
これまでボクシングを題材にしたたくさんの作品に関わっている方なので、最初お会いしたとき、松浦さんに「今までにないものにしてください」と、自分からハードルを上げるお願いをさせてもらいました。実際、本当に求められるレベルが高くて大変でしたが、松浦さんが作ってくれたものを越えようという気持ちで挑むことができました。本当にリアリティのある、今までにないようなクオリティの高いものになったと僕自身は思っています。本当に松浦さんには感謝しています。
──先日、ボクシングのプロテストにも合格されました。プロテストに挑んだ際の想いも聞かせてください。
挑もうと考えたのは、この作品を盛り上げるため。「これだけ本気でやったんだぞ」という意思表明のようなものです。もちろん、少しでも格闘技を盛り上げることができればという想いと、格闘技が好きだから追求したいという気持ちもありました。合格できたのは、それこそ松浦さんをはじめ、ボクシング指導してくれた方々のおかげです。当日は空手をやっていたときの気持ちも思い出して、緊張せずに楽しみながらできました。相手が強い方で、鼻血はめちゃくちゃ出ましたけど(笑)。でも彼らはボクシングを職業にされる方としてプロテストを受けているわけですから当たり前です。映画内でレフリーをやってくださった福地健治さんが、プロテストの会場に審査員としていらっしゃっていたのですが、「映画の現場では僕らがお邪魔させてもらったけど、今回はこっちのフィールドだから、厳しくいくよ」と言ってくださって。本当に厳しく審査していただきました。