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TK(凛として時雨)本を作る過程は「おぼろげでも僕の形が浮かび上がっていく感覚」

2023/08/02 18:00

TK(凛として時雨)
TK(凛として時雨)

人気バンド・凛として時雨のTKが初のエッセイ『ゆれる』を2023年6月21日に発売した。家族や生い立ち、バンド結成にまつわる出来事、音楽と向き合う時に感じる喜びと苦しみなど、自身の半生と内面をまとめあげた濃密な一冊となっている本書。いつもとは違う「本を作る」というフィールドに身を置いた日々を振り返り、感じ取った違和感や刺激について語ってもらった。

本の執筆は「意識的に刺激を与えるいいチャンス」


――『ゆれる』を拝読して、すごくTKさんらしい文章だなと思いました。なぜ今まで文章を書こうと思わなかったんだろう……と疑問に感じるくらい良かったです。

TK:数年前に一度、自分のことを書いてみようかなと思うタイミングはありました。でも、実際に文章にしてみると、音楽を作る過程を書いても、音楽と向き合う姿勢を書いてみても、自分にとってはすべてが当たり前のことすぎて、特に面白味を感じなかったんです。文章を読み返しても「こんなの全部分かってるよ」という印象にしかならなかったので、文章でなにかを残すということに積極的ではありませんでした。

――それなのに、このタイミングで出版ということはなにかきっかけがあったということでしょうか。

今回KADOKAWAさんからお話をいただいて、編集の方から、「ライターさんに取材してもらってまとめもらうという形もありますよ」という手法を提案してもらいました。その話を聞いて、「ひとりで文章にしている時とは違うものが生み出せるんじゃないか」という希望がうっすらと見えた気がしました。もちろん、自分の考えとぴったり一致することはないので、加筆することが前提でしたけど「そんなことができるの?」という単純な興味もありましたね。

TK(凛として時雨)
TK(凛として時雨)

――第三者から見た自分というのを見てみたいと思った、ということでしょうか。

TK:どうやって作るかという手順が明確に見えていたわけではないですが、他人とコミュニケーションを取る中で、自分が気付いていない自分というものを見つけられるかもしれないと思いました。僕のことを書いてある文章を、他の人に読んでもらって、意見を交換したり、時にはダメ出しされたりしながら新しいものを生み出す。そういう部分に対して、単純に「面白そうだな」と。僕の場合は、人生の大半を音楽に費やしているので、音楽に関しては作品を作るための筋道みたいなものが回り道はしたとしても感覚として分かっているつもりなんです。自分の得意としていることも、不得意なことも。こうしたら上手くいく、とある程度の未来が見えていると、そこから抜け出せなくなってしまうし、新しいものに手を出さなくなってしまう。それはすごくもったいないことだと思っているので、意識的に刺激を与えるいいチャンスだと思いました。

TKが考える“プロ”の仕事とは


――書籍に関わって、どんな部分に刺激を感じましたか?

TK:自分では全然面白いと思っていなかったことも、編集の方やライターさんの前で話してみると「それは面白い考え方です」という反応が返ってきたのは印象的でした。同席していたマネージャーからも「それは音楽業界を目指している人に刺さりそう」と言われたり。僕が主戦場としている音楽の世界にいる人だけではなくて、一般的な目線やいつもとは違った切り口から「面白い」と判断してもらう機会ってあまりないので新鮮でした。例えるなら、自分ひとりではなんの凹凸もないと思っているところに、違う角度でスポットライトを当ててもらうような感覚で、その結果おぼろげでも僕の形が浮かび上がってくるのは刺激的な時間です。例えば「朝ごはんはヨーグルトを食べるんです」って当たり前な話をして、「それは初めて聞きました!」って言われる様な感覚の連続です(笑)。

――主戦場ではないからこそ、悩んだことも多かったと思いますがどういう部分が難しかったですか?

TK:もともと本を読むという習慣がないし、文章の世界で生きている人間でもないので、文章というものに対しての正解があいまいだったことですね。すごく失礼な話ではあるんですけど、ライターさんが書いてくれたものに対して、「これはどこかが自分の感性と違う」という違和感だけは明確にわかっていて、具体的にどこが違うとか、どんなふうに直してほしいという部分を上手く伝えられない難しさがありました。ただ、一方では僕の理解が追いついていないだけで、文章としてはこれが正解なのかもしれないと思う自分もいたので、ライターさんの書いたものをどのくらい自分で直すのかは悩ましかったです。自分のフィールドじゃないからこそ、僕の正解を本に当てはめてしまっていいのかという葛藤があって。なかなか言語化するのが難しいですけど、初めて読んだ原稿に書かれていることは確かに僕の話した内容なんですよ。事実関係が間違っているということもないし、読みやすくまとめていただいている。だけど、「自分の作ってきた音楽って聞きやすくまとまっているものだっけ?」という部分に立ち返ると、「違うな」と感じはじめて。自分の音が響いていないというか……。

――感覚的な部分で「違う」と思ったものを自分で修正していくのは大変な作業のように思います。自分が納得できるものを作りたいという気持ちは、音楽にも本にもにじみ出ているということですね。

TK:本の中でも紹介している話ですが、音楽における様々な場面でプロにお任せした仕事を自分でやり直したことは過去に何度かあります。人の仕事をやり直すというのは、褒められるような話ではないですけど、自分の音楽がよりよくなるために正直に相手に話して、どこに違和感を感じているかなど擦り合わせていきます。だけど、僕も良い歳の大人なので手直しすることで「人を傷つけるかもしれない」と思う気持ちは当たり前に持っています(笑)。だから、全部に対して「自分の音を乗せなきゃいけない」と思っているわけではなくて、どっちでもいいかと思えることももちろんあるんですよ。ただ、今回は自分の名前で出る本でもあるし、僕の中のセンサーが「違う」と思ったことに関しては、理想に近づけたいという気持ちですね。

――では、TKさんがプロに求めていることってどういう部分なのでしょうか?

TK:自分がやるよりも自分らしい形になっているというのは求めているかもしれません。僕だけだったら98%にしかならないものに、僕にはどうしても描けない2%を足してもらって100%になったり、もしくはそれ以上の形になるのを期待しているところがあります。それが冒頭に話したスポットライトを当ててもらうということでもあるので、やり方としては「TKさん、ここ面白そうだから光当ててみて」って言われて、自分で当ててみるっていうやり方が自分には合っているんだなと思いました。それは、人に任せる部分と自分が関わらなければいけない部分のラインが上手に引けていなかったということでもあると思います。僕は、出来上がったものを見て「違う」と感じることしかできなくて、打ち合わせの段階では出来上がりを想像できないというか。

TK(凛として時雨)
TK(凛として時雨)


ひとつ自分の中のチャンネルが開いたような感じ


――最初に決め込まないからこそ、良いものができるという側面もありますよね。それは、音楽との向き合い方と変わらない部分でもあると思います。反対に今回、書籍を通して文章を書くことに前向きになれた、というようなTKさん自身の変化はありますか?

TK:率直に言うと、自分の書く文章に関しては「これからも文章を書きたい」という気持ちはないですね。ただ、ひとつ自分の中のチャンネルが開いたような感じはしています。それに、文章ということではなく、思っていることを言語化するのは素直に楽しいと思いました。今までもそういうタイミングはあったんでしょうけど、今回書籍を出版しなかったら気がつかなかったかもしれないですね。自分の中の変化としては、前向きかという質問からは少し答えがずれてしまいますけど、ちょっと文章書ける気になっているっていう(笑)。だけど、僕の中ではそれって良いことではないなと思っています。

――え、どうしてですか? 文章が書けるようになったって、すごく前向きな話だと思いますけど。

TK:音楽の世界だったらちょっとギター弾いてみて、弾ける気になっている人っていうことです。それはそれでいいですけど(笑)。今回の本は、本の評価としては出来が良いか悪いかは分かりません。ただ、僕が良いと思う部分や面白いと感じる書き方を追求して、自分の音楽と重なる部分を文章の中に見つけることができたという意味で、自分にしか書けないものが出来上がったと思います。

――文章を書ける気になったことが良くないという話や、プロにお願いしたあとに自分で書きなおすところも含めて、TKさん自身が揺れうごいている気がしますね。

TK:そうですね。本を出版するにあたって、「自分が書くべき本」にできるかどうかは大きな壁だったと思います。僕が本を出して、「想定の範囲内だったね」と言われるくらいなら出す意味がないと思っていました。出版のお話をいただいた時には、自分の形にできるかどうか期待はありましたけど確証はなかったので。正直、僕自身この壁を超えられるか興味があったんだと思います。そうやって過去の自分が期待したものを超えられて、自分に対する興味も深みを増していったような気がします。

取材・文=山岸南美
写真=岡田貴之

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

書籍概要
「ゆれる」
定価:1,980円(税込)
版型:四六版/224P
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000136/
Amazon:https://amzn.asia/d/gdgZHXq

TK
1982年生まれ、東京都出身。ロックバンド、凛として時雨のボーカル&ギター。同バンドにおける全作品の作詞作曲を担当し、鋭く独創的な視点で音楽を表現。加えて、色彩豊かで温度感のある歌詞と刹那的なハイトーンボイスでファンを魅了する。TK from 凛として時雨のソロ名義でも活動するほか、多くの著名アーティストのプロデュースも手掛ける。海外にも多くのファンを持ち、2021年にはアニメ『東京喰種トーキョーグール』の主題歌「unravel」が“Spotifyにてもっとも海外で再生された日本アーティスト楽曲”となる。

Instagram:https://www.instagram.com/tk_snsfakeshow/

ゆれる
ゆれる
TK (著)
KADOKAWA
発売日: 2023/06/21
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