コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は『そんなわけあるかもしれない話』をピックアップ。
漫画家であり作者の高村秀路さんが6月9日に自身のX(旧Twitter)に投稿したところ、漫画の世界と現実がリンクする不思議な物語が話題を集め、3.6万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、高村さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
漫画だからこそできる秀逸な表現方法に「すごい」と反響続出
朝の登校時間。鐘がなり生徒たちが校舎に入っていく中、制服姿の女子高生はふと「どうしよう、わかっちゃった」「私って漫画の登場人物なんだ」と気づく。突然不登校になったのも“そういう設定のキャラ”だからだと考えていた。
ファストフード店に入った女子高生は、自分の運命を握っている作者へ漫画の中からコンタクトを取ってみることに。目を瞑り「お〜い作者〜!」と強く念じると、「呼んだ?」と長方形の枠が現れる。
不登校や学園ものの設定を変えてほしいと“枠”に必死に訴える女子高生だが、作者からは「変えるのは無理」と断られる。作者の投げやりな態度に苛立ち、自分で設定を変えると言いながら店を出て学校へと向かう女子高生。しかし、道端で迷子の少女や道路を渡る老人を手助けすることになったり、倒木に阻まれたりと作者によってしつこく妨害されてしまう。挙げ句の果てには地球に隕石が落ち、女子高生は結局学校に着くことができないのだった。
何も無くなった地上で、女子高生は作者に「私ってなんで不登校になっちゃったの」と問いかける。すると、作者から返ってきたまさかの理由と衝撃の事実に女子高生は愕然として…。
登場人物と作者が“対話”しながら物語が進行する、漫画だからこそできる唯一無二のストーリー展開が秀逸な本作。中でも反響が大きかった、漫画の世界と現実とが実際にリンクするラストシーンはぜひ実際に読んでその面白さを体感してほしい。X(旧Twitter)上では「非常に面白い!」「すごい…すごいものを…読んでしまった…!」「引き込まれた」「活字だけでは表現しきれない、作画あってのストーリー」「面白すぎて震える」「発想天才すぎません?」など読者から多くのコメントが寄せられている。
大人の“私”から小学生の“私”に贈る漫画 作者・高村秀路さんの創作背景とこだわり
――『そんなわけあるかもしれない話』はどのような発想から生まれたのでしょうか。創作のきっかけや理由があれば教えて下さい。
小学生の頃、寝る前に本を読みながら「主人公の物語は私が読むことで進んでいくけど、それなら私の毎日も誰かに読まれて進んでいくんだろうか。私も誰かが読んでいる本の登場人物なんだろうか」というようなことを考えては、私が主人公の1億ページ(小学生が思いつく最大の数)くらいある本を読んでいる、神様のような人の姿を想像していました。大人になって、人格を持った神様的な人はいない気がしてきましたが、代わりに「決定論」「自由意志」などの言葉を聞きかじり、全部を始めから終わりまで決めている物理的な法則のようなものがあってそれを神様と呼ぶのではないかと思うようになりました。
そして「自分は物語の登場人物で、ストーリーは全部決まっているのかも」と考えていた小学生の自分に、そんなわけないよね、と言えないまま、それを漫画にしたのが『そんなわけあるかもしれない話』です。ですので、主人公は小学生の頃の私です。
――本作を描くうえで特にこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えてください。
私が小学生の頃に考えていたことを「そうかもしれないよね」と思ってほしかったので、漫画の世界と現実を繋げるにはどうしたらいいかを考えました。漫画が一旦終わった後に作者を写真で出すことで作者は現実の人物だということを示したうえで、最後をカラーにすることによって現実だったはずの作者も漫画の登場人物だったということを言いたくてそれが伝わるような演出にしました。現実だったはずの作者が登場人物にすぎないなら、漫画を読んでいる現実の自分も、登場人物にすぎないかもしれないと思ってほしいという意図がありました。
――本作の中で高村秀路さんにとって特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
隕石を描くのが楽しかったです。決まった形のない自然物は、正確さをあまり考えずに無心に線を引けるので楽しいです。これは漫画です、ということが前提の話なので、隕石が落ちたり宇宙に行ったり無茶苦茶ができたのもよかったです。
――高村さんは月刊コミックガーデンで『うらうらひかる 津々に満つ』(マッグガーデン)を連載中ですが、作品の見どころについて教えていただけますか。
『そんなわけあるかもしれない話』とは全然方向性が違う話なのですが、これはこれでまた、小さいころに考えていたことを下敷きにしています。死んだあとになんにもなくなることが怖くて怖くてしょうがなかった子どもの私への、大人になった私からのひとつの答えです。
連載当初は右も左もわからず、これでいいのかなぁと思いながら描いていましたが、今は全体の折り返しを過ぎて、これでいい!と思いながら描いています。面白くなってきていると思います。よろしくお願いいたします!
――高村さんにとって創作全般においてのこだわりや、物語を創り上げる上で特に意識している点がありましたら教えてください。
漫画を描き始めたばかりのころ、出版関係の友人に「漫画なんだからセリフやモノローグに頼りすぎないでできるだけ絵で表現した方がいい」と言われ、それがひな鳥の刷り込みになって今もモノローグを使ったりセリフで説明したりするのに少し抵抗があります。人の漫画だと全然気になりませんし表現方法のひとつだとわかっていますが、刷り込みされてしまったので仕方がないです。とは言いつつ「うらうらひかる〜」は1ページ目からモノローグ使ってますが(笑)。
―― 最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
以前から知ってくださっている方も、このたび新しく知ってくださった方も、漫画を読んでいただいてありがとうございます。漫画を描くのは、生きていて余った時間で他にすることがないのでやっているという表現が一番しっくりくるので、誰にもなんにも読まれなくても多分何かは描くんですが、それでもやっぱり誰かに読んでもらえる方が1億倍嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。