複雑な心を抱える藤子に、突然の告白
病院から戻り、家で洗い物をしていた藤子はノックの音で玄関へ向かう。扉の覗き穴から訪ねてきた相手を確認すると、そこには蒼真の姿が。もう現れることがないはずのストーカーに、驚きのまま後ずさりする藤子。しかし大きく動きすぎたせいで近くに置いてあったトレイに体がぶつかって、音を立ててしまう。
「藤子さん?藤子さん大丈夫ですか?」と蒼真から声がかかる。藤子が「帰ってください!」と声を絞り出すと、「…ごめんなさい。藤子さんが心配で、つい来てしまいました」と返答が。さらに「藤子さんが倒れたのって、僕のせいですよね?」「僕が突然いなくなったから…」と続く蒼真の声に、藤子は「全然違います!仁科さんは、関係ありません」と大きく声を張り上げる。その顔は、言っている本人こそが傷ついているような悲痛さに満ちていた。
藤子の言葉を聞き、蒼真は「ごめんなさい。…さようなら」と遠ざかっていく。段々小さくなる足音を張り詰めた表情で見送る藤子は、そこで目を覚ました。蒼真が訪ねてきたというのは夢だったのだ。眠っている間に流れ出た涙の跡が、痛々しく藤子の心を物語る。
藤子が夢を見ていたと自覚する間もなく、玄関のノックする音が響く。夢の再現ともいえるシチュエーションに、本当なら恐怖を感じる場面。しかし藤子は、涙を拭うと大急ぎで扉を開けた。
だが待っていたのは、後輩に発破をかけられて見舞いに来た坂本。足早に見舞いの品だけを渡して帰る坂本の脳裏には、目を腫らして扉を開けた藤子の姿が強く焼きついていた。「誰を待ってたんだか…」不器用な坂本だが、間違いようもない心あたりが1人、浮かんでいるのだろう。
改めて出社しだした藤子は、「朝起きて、いつもどおりの一日が始まる」「一日の終わりには、ベランダでビールを飲む」「だから、私は元気だ。元気なんだ」と自分に言い聞かせる日々を送っていた。しかしその視線は蒼真の部屋の玄関で止まり、足は蒼真といっしょに訪れた町の中華屋へ向いてしまう。自分に言い聞かせる言葉とは裏腹に、生活のどこにでも想い人の影を探しているように見える。
そんな日々のなか、坂本と会社の退勤時間が重なった藤子。エレベーターを待つ間に、固い表情の坂本が突然藤子の名前を呼ぶ。「蓬田…俺たち、付き合わないか」突然の告白に、藤子は戸惑いの表情を浮かべて固まるのだった。