2023年はウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年となる年。そんな年の話題の一つが、「リトル・マーメイド」の実写映画化だ。初夏に劇場公開された同作が、早くも9月20日より配信開始。実写版でより深く紡ぎ出された、アリエルの“愛と希望の物語”をレビューする。(以下、ネタバレを含みます)
「リトル・マーメイド」あらすじ
不朽の名作として愛されているディズニー・アニメーション「リトル・マーメイド」は、アメリカ本国では1989年、日本では1991年に劇場公開された。その頃は「白雪姫」や「シンデレラ」のアニメーション映画がヒットした勢いが少し落ち着いていたときだった。本作の大ヒットで盛り返し、その後、「美女と野獣」「アラジン」という名作が相次いで誕生することになったきっかけの作品でもある。
その「美女と野獣」「アラジン」がすでに実写化されたのに続いて、ついに「リトル・マーメイド」も実現した。ストーリーはアニメーション版にほぼ忠実な展開となっている。
人間の世界に憧れている人魚アリエル(ハリー・ベイリー)は、ある日、嵐に遭って海に振り落とされた王子エリック(ジョナ・ハウアー=キング)を救う。この運命の出会いにより、人間の世界への思いが抑えきれなくなったアリエル。そんな彼女に海の魔女アースラ(メリッサ・マッカーシー)が恐ろしい取引を申し出る。それは3日間だけ人間の姿になれる代わりに、アリエルが持つ世界で最も美しい声をアースラに差し出すことだった。
主演をつかみとったハリー・ベイリーの類まれな歌唱力
本作はミュージカルであり、物語を彩る楽曲はアニメーション版の際に「アカデミー賞」の作曲賞と歌曲賞をW受賞。2008年にブロードウェーで初演を迎えた舞台化でも人気を博しているほど、名曲ばかりだ。
そんな中でメイン曲となるのが「パート・オブ・ユア・ワールド」。何度か登場するが、初めは主人公アリエルが人間の世界に近づくことを掟で禁じている父である海の王トリトン(ハビエル・バルデム)に小言を言われた後に歌い上げる。
アリエルを演じるハリー・ベイリーは、現在23歳。姉のクロイとR&Bデュオのクロイ&ハリーとして活動し、グラミー賞にノミネートされるなど歌手としては実力派だが、女優歴は少なく、本作への出演はまさに抜てきといえるものだった。
始まって好奇心いっぱいの人魚姫としてキラキラと輝くキュートな表情を見せていた中、20分ほどのあたりで歌う最初の「パート・オブ・ユア・ワールド」は物語の要となるが、ハリーの圧倒的な歌唱力に魅了される。まだ見ぬ世界への憧れ、知的好奇心を満たしたい、そのために自由を求める気持ちを美しく澄んだ声に乗せる。最後の“海の外へ、その世界の一部になれたらいいのに”という意味の歌詞は、この後のアリエルを突き動かす思い。それが見る者の心にしっかり届き、まさに渇望していると思わせる健気な表情も胸に迫り、物語の世界にぐっと入り込める。
なお、日本語吹替版(プレミアム吹替版)では、多数のミュージカル舞台で経験を積んできた豊原江理佳が美声を披露しており、こちらも圧巻。ちなみに、同じく日本語吹替では、ミュージカル俳優として大人気の海宝直人がエリックを、声優・木村昴がアリエルのお目付け役を任されるカニの執事長・セバスチャンを担当し、声の演技に加えて歌声も素晴らしい。ラッパーとしても活動する木村は、実写版で新たに追加されたラップ調の楽曲を見事にこなしているのも必聴だ。
https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/the-little-mermaid
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