“漫画の神様”手塚治虫が遺したライフワークの一つであり、いまなおロングセラーを続けている大作「火の鳥」の、『望郷編』を原作とするオリジナルシリーズ「火の鳥 エデンの宙(そら)」が全話配信中だ。同作は、“エデン17”なる惑星に降り立った地球生まれの女性・ロミ(CV:宮沢りえ)が主人公の物語。恋人のジョージ(CV:窪塚洋介)を事故で失うものの、気丈に生きて、息子のカイン(CV:木村良平)に「13年後に目覚める」ことを約束して機械の中で眠りに入るが、誤作動で「13年後」ではなく「1300年後」に目覚めてしまう。長過ぎる眠りから解放されたロミを襲ったのは、計り知れないほど強い「ふるさと=地球」への思いだった。ここから地球へ戻るための、宇宙をさまよう旅が始まる。ロミの旅のパートナーは、エデン17で生まれ育った宇宙生命体の心優しい少年・コム(CV:吉田帆乃華)。旅の途中で、地球からやってきた移民星調査員の牧村という男とも出会った。今回は、牧村を演じる浅沼晋太郎について紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
浅沼“牧村”が衝撃発言でロミらを困惑させる
ロミの旅は比較的順調にいきそうだったのだが、牧村は衝撃的な一言を口走る。それは「もう地球は存在しない、消え失せてしまった」というもの。彼の発言はロミを大いに落ち込ませたが、ロミ思いのコムは逆に発奮。「是が非でも、その地球とやらを見つけ出してやるぞ」と、気持ちは燃え上がるばかり。最初はぎこちなかったロミやコムと、牧村の間に次第に信頼関係が生まれていくところも、この物語の味わいどころであると断言したい。
そんなふうに物語をある意味で大きく引っかき回す役どころを務めた牧村の声を担当する浅沼は、脚本家・演出家・俳優・コピーライターと精力的に活動する才人。2000年から演劇活動を開始、2007年にはエンターテインメントユニット“bpm”の創設メンバーの一人となり、今に至る全公演の脚本・演出を担当している。イケメン声優としても注目され、2020年には1st写真集「POPCORN」をリリースし、発売前に重版がかかる人気ぶりだ。
“本業”の声優デビューは、2006年のSFロボットアニメ作品「ZEGAPAIN-ゼーガペイン-」での十凍京(ソゴル・キョウ)役。いきなり主人公に抜てきされた。この「ZEGAPAIN-ゼーガペイン-」シリーズは今も続いており、去る8月31日には新作「オルタモーダ編」の制作決定がアナウンスされたばかり。それを記念して2023年10月から、TOKYO MXにてTVシリーズが再放送されることも決定している。
他にも、ターニングポイントになったと自身でも語っている「四畳半神話体系」の「私」役を筆頭に、その発展形といえる「四畳半タイムマシンブルース」での「私」役、さらに「刀剣乱舞」の鳴狐役、「ダイヤのA」の倉持洋一役、「あんさんぶるスターズ!」の月永レオ役、「東京喰種トーキョーグール」の西尾錦役、「ヒプノシスマイク」の碧棺左馬刻役などなど、ファンそれぞれの中で、それぞれの浅沼像が芽吹いているに違いない。
すごみのある低音から軽やかな高音まで役に応じて使い分ける声域の広さ。「私」役での猛烈な早口セリフは、「活舌が良い」「どんなに早くしゃべってもしっかり言葉が聞こえる」「発声の粒がそろっている」からこそ可能な技である。さらにどんなキャラクターを演じていても醸し出される、「浅沼晋太郎が演じるなら、いくら期待しても大丈夫」的な安心感。その頼もしさはもちろん、本作「火の鳥 エデンの宙」においてもしっかり発揮されている。
浅沼「すべてが信じられない思い」
作品の配信にあたって、浅沼は「思い返せば、僕が人生で最初に触れた『火の鳥』は、11歳のとき。ファミコンソフトでした。そこから原作に触れ、当時では受け止めきれない壮大さにど胆を抜かれたことを覚えています。36年たった今。手塚治虫先生の作品に関わらせていただくこと。全世界で配信されること。ご一緒させていただくのが夢のような共演者……すべてが信じられない思いです」などとコメントを寄せていたが、子どものころから好きだった作品に、声優として携わることのできる喜びは、どんなに大きなものだろう。
ロミ役の宮沢とのコンビネーションにも注目しながら、浅沼が演じる牧村の一言一言に、しっかり耳を傾けたい。
なお、同作はディズニープラス「スター」での配信に加え、11月3日(金)には「火の鳥 エデンの花」としてエンディングが異なる劇場版の公開も決まっている。
◆文=原田和典
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/phoenix-eden17/
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