コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、ホラー漫画『厭談夜話』(小学館)をピックアップ。
怪談師・夜馬裕さんが全国から収集した実話怪談を、漫画家・外本ケンセイさんがコミカライズし話題を呼んでいる本作。7月12日に外本さんがX(旧Twitter)に第1話を投稿したところ、狂気をも感じる恐ろしい体験談に反響が集まり5.5万以上の「いいね」が寄せられた。この記事では原作者の夜馬裕さん、作画を担う外本ケンセイさんそれぞれにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
父親と娘が住む団地で起こる怪奇現象…女の幽霊のまさかの正体が「怖すぎる」
『厭談夜話』の第1話「女の幽霊」では、編集者を生業にしつつ仕事の傍ら趣味として怪談話を収集しているY氏による恐怖の体験談を描く。Y氏はある日、知人から「俺の会社の同僚にヤバイ奴がいるから会ってみてほしい」という紹介を受け、その人物と喫茶店で会うことに。
某有名メーカーに開発職として勤めるシンジさん(仮名)は、Y氏に会って早々「俺には女の幽霊が取り憑いている」と明かす。実はシンジさんには死別した恋人がおり、彼女の遺した娘と一緒に2人で暮らしているのだが、ある頃から家の中で不可解なことが起こるようになったという。食器や棚の物が勝手に動いたり、誰もいないのにドアが開いたり、さらには寝ている娘の布団を掛けかえてあったりなど、幽霊の仕業としか思えない現象が起こり続けているというのだった。
本当に女の幽霊が居るのかどうか確かめに来てみないか、と誘われたY氏は好奇心に駆られ、古く寂れた団地を訪れる。玄関で出迎えてくれたシンジさんに招かれ、家の中に入るY氏。しかし、一見普通の部屋に思えたのも束の間、“あること”に気づいてしまったY氏はその異様な光景に背筋が凍り…。
女の幽霊のまさかの正体と真相を恐怖感たっぷりに描き、読者に衝撃を与えている本作。実話怪談ならではの生々しい展開に、X(旧Twitter)上では「怖すぎる」「ゾクゾクした」「執念が恐ろしい…」「不気味な愛憎劇」「怪談を聞くのとまた違った怖さで面白い」「真相が切ない」など多くのコメントが寄せられ、大きな反響を呼んでいる。
怪談師・夜馬裕さん、作画・外本ケンセイさんが語る創作の背景とこだわり
――作画を担う外本ケンセイさんにお尋ねします。『厭談夜話』を怪談師・夜馬裕さんと作り上げることになった経緯やきっかけがありましたらお教えください。
外本ケンセイさん:元々自分は怪談が大好きでイベントにもよく行ってるのですが、特に夜馬裕さんの大ファンだったんです。編集さんとの雑談の中で夜馬裕さんの怪談を紹介した所、見事にハマってくれて「是非漫画にしましょう!」という運びになり、有難い事に夜馬裕さんにも快諾頂き『厭談夜話』が誕生しました。
――第1話をX(旧Twitter)に投稿後、5.5万を超える「いいね」が寄せられ話題となりました。今回の反響について、外本さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
外本ケンセイさん:素直に反響には驚きましたね。でも自分が夜馬裕さんの怪談を初めて聴いた時の衝撃と怖さをもっと多くの人に知って欲しいという思いだったので、とても嬉しいです。読者の声で一番多かったのは「やっぱり本当に怖いのはオバケより人間」という感想でした。人間の情や念みたいなものからくる怖さはホラーファン以外にも共感出来る部分が多いのではないでしょうか?
――怪談を実際に漫画として仕上げていくうえで、特に意識した点やこだわった点はありますか?
外本ケンセイさん:夜馬裕さんの怪談の魅力は人の思いや感情を深く抉って来る所にあると思います。なので登場人物の表情にはかなりこだわって表現しています。単なる喜怒哀楽ではなく、登場人物の表面上見せてる感情と裏の感情、そして念や怖さという本心を丁寧に描く事で夜馬裕さんの怪談を可能な限り漫画として再現しようと心掛けてます。
――続いて原作・夜馬裕さんにお尋ねします。『厭談夜話』は、夜馬裕さんがこれまでに収集した怪談をコミカライズした作品となっていますが、お話を受けた際の率直なご感想を聞かせていただけますか。
夜馬裕さん:自分の怪談が漫画化されるのはひとつの夢であり目標だったので、とても嬉しかったのですが、その反面、かなり不安でもありました。
私は「実際に収集した話」を怪談師として語り、また本を執筆するという、いわゆる「実話怪談」としてやっているので、漫画化されることで話が大きく変わってしまうと、話の提供者に対してはもちろん、これまでの観客や読者を裏切る形になります。
ナレーターの役割も担うキャラクター(レイちゃん)が出ることは当初から決まっていたのですが、果たしてこの創作パートと自身の怪談が本当にうまくつながるのか、そもそも漫画家さんや担当編集者は、本当に私の怪談をきちんと再現してくれるのか――。
今だからこそ言えますが、正直なところそんな不安もありました。ですから、第1話目のネームが届いた時、外本ケンセイ先生と編集者が、自分の怪談をとても大切にしてくれているのがわかって、ホッとひと安心すると共に、そこからはどんどん漫画化への期待が膨らんでいきました。
――怪談を漫画として仕上げていくうえで印象深かった出来事はありますか?
夜馬裕さん:私は出版社の仕事をしながら、怪談師としても活動しているので、いつも時間に追われる生活です。忙しさにかまけて、ついネームの確認が遅くなってしまい、外本先生や編集者にはずいぶん迷惑をかけている気がします。待たせている割には、細かいネームの修正を依頼したりするので、結構面倒くさい原作者だと思うのですが、それでも快く対応くださるので本当に感謝しています。
すでに次回掲載のネームまで出来上がった段階で、話を提供してくれた体験者の方から、「自分にも事前に確認させてほしい。納得いかなければ漫画化は許可できない」と連絡があった時は結構大変でした。確認期限を過ぎてもなかなか「OK」の返事が来なかったので、あの時は「次号掲載が落ちたらどうしよう…」とずいぶん肝が冷えたものです。
結果的には微修正だけで掲載を許可してもらい、漫画の出来も喜んでもらえたので良かったのですが、「連載」というものの厳しさと重さを実感した瞬間でした。
――本作に収録された怪談の中で、特に思い入れのあるエピソードや体験があれば教えてください。
夜馬裕さん:コミックス1巻に収録されている「幽霊を見る方法」ですね。これは私自身が体験した怪異なので、強烈に記憶に残っている話です。
とある地方の酒場で、初老のバーテンダーがもの凄く怖い話を聞かせてくれたのですが、なぜか聞き終わると眠くなってしまい、目が覚めたら店内は無人で誰も居ませんでした。しかも入口の扉には閉店のお知らせが貼ってあるんです。混乱する頭でなんとか昨晩のことを思い出そうとするんですが、凄く怖い話を聞いたことは覚えていても、その内容がまったく思い出せない。手がかりを探るため、普段取材に使っている手帳を開くと、自筆の大きな文字で「忘れよう」と書いてあるんです。でも裏のページには、やはり自筆の小さな文字で「思い出せ」と書いてある。
結局、何が起きたのかわからないまま数年を過ごしたのですが、ある晩突然、バーテンダーから聞かされた話の記憶が甦りました。とても恐ろしい話なのですが、この続きはぜひコミックスでお楽しみください。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、お二人からメッセージをお願いします。
外本ケンセイさん:『厭談夜話』第1巻、好調な発進と編集さんから伺っております。これも一重に読者やファンの皆様のおかげです。そして第2巻が11月10日(金)発売決定!今回はなんとホラー漫画界の大御所である伊藤潤二先生に推薦文頂いております。夜馬裕さんが織りなす怪異×人怖の最恐怪談に共に浸りましょう…。
夜馬裕さん:私の話はよく「厭怪談」と言われるのですが、これは幽霊や呪いなどこの世ならざる怪異と、人間の悪意や因業という人怖(ヒトコワ)の要素、その両方が詰まった怪談を語るからです。この「厭」な話こそが私の持ち味なので、漫画のタイトルにも「厭談」と付いているくらいです。これからも怪異と悪意に溢れた“厭な話”をたっぷりとお届けしますので、怪談ファンの方も、ホラー漫画ファンの方も、引き続きご愛読いただければ幸いです。