コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、原作・Ruさん、作画・宮原都さんの二人で描く『夏とレモンとオーバーレイ』の第1話をピックアップ。
作画担当の宮原都さんが、2023年9月16日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、7,500件を超える「いいね」と共に、多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、Ruさんと宮原都さんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。
自分の葬式で遺書を読み上げてほしいという謎の女性が目の前に現れた…
この物語の主人公は、夢を追いかけて声優になるも仕事はほぼゼロの「ゆにまる。」。配信の投げ銭や忘れた頃にやってくるナレーションなど、本業の小さな仕事で得られる収入はごくわずかで、コンビニバイトをしながら食い繋いでいる状態だ。
コンビニには色々な“世界”に生きる人たちがやってくる。なかでも、キャリアを積みながら自分磨きできるキラキラした女性の住む世界は、ゆにまる。にとって“異世界”に感じている。今の自分とは真逆の存在なのだ。
“…いつまでこの生活が続くのだろう”
そんなことを考えて過ごしていたある日、仕事の依頼が舞い込む。DMからの連絡で怪しさもあり、本当ならすぐにブロックして無視するところだったが、丁寧な文面でしたためられた文章と仕事の依頼という点で思い留まり、依頼者に会うことを決めるのだった。
約束の日、待ち合わせ場所にやってきた依頼者は、ゆにまる。が“異世界”と表現するお金にも困っていないようなキラキラした女性だった。名刺には、「紺野さやか」という名前とともに、大企業名が記載されている。
大企業に勤める“異世界”の女性が、無名な声優である自分に何の依頼があるのだろう…と不審がるゆにまる。だったが、さやかの口からは斜め上の言葉が飛び出した。
「あなたにお葬式で遺書を読み上げてほしいんです」
ゆにまる。は驚いて詳しく話を聞くと、夏の終わりに“デッド”を設けているさやか自身の葬式で、遺書を読んでほしいというのだ。報酬は50万円。さらに、打ち合わせなどの拘束が発生した場合には、時給で3,000円を支払うという。
ゆにまる。は、依頼内容と高額の報酬を提示されて「バカみたいな話だ」と呆れた様子を見せながら、さやかにこう答えた。
「…やります」
バカみたいな話なのは重々承知。しかし、今の自分の生活をどうにかしたいという気持ちの方が勝った。50万円を得られれば、美味しいご飯が食べられる。声優の夢をまだ追いかけていられるかもしれない…。
正式に契約書を交わし、遺書作成の会議や棺に入るときの衣装決めなどを行った。
さやかがなぜ夏の終わりに死ぬことになるのか、なぜ遺書の読み上げをゆにまる。に依頼したのか――。謎を多く残したまま第1話は終わっている。本作はコミック1巻で完結しているため、ぜひチェックしてみてほしい。
原作・Ruさん「自分自身が小説家という夢を追って必死に生きていた」作画・宮原都さん「Ru先生の紡ぐ言葉全て、私の心を打ちました」
――『夏とレモンとオーバーレイ』を描こうと思ったきっかけや理由などをお教えください。作画担当の宮原さんにつきましては、コミカライズを担当しようと思った理由・惹かれたポイントなどをお教えください。
Ru:pixivで百合文芸コンテストの存在を知り、百合作品は初めてだけれど挑戦してみようと思ったのがきっかけです。自分自身が小説家という夢を追って必死に生きていたので、同じように夢のために生活を削っている主人公を描きました。
宮原都:一番の理由は、原作小説を読んで「好きだ」と思ったからです。紺野さんとゆにまる。の切ない関係性、夏の終わりの空気を丁寧に表現した文章、そして各話の秀逸なサブタイトル。Ru先生の紡ぐ言葉全て、私の心を打ちました。
それとキャラクターデザインをさせてくださったのも大きな理由の一つです。私は自分で作ったキャラクターを描くのが一番楽しいので、良い作品を仕上げるには好条件だと思いました。
――作品を描くうえで、特に心がけたところ、大切にしたことなどをお教えください。
Ru:もっとも大切にしたのは「生きるのが苦しい」という感触のリアリティです。
次にビジュアル的な美しさを心がけました。ゆにまる。の現実に根ざした生々しい困窮や、紺野さんの虚無的な希死念慮など、苦しさを感じる要素が多いので、エモーショナルな美しさを足すことでバランスを取ろうと思いました。
宮原都:最初にRu先生から「『瞳』の部分は丁寧に描いて欲しい」という要望をいただきましたので、私の今出せる最高の力を原稿に込めました。「綺麗だけど奥に暗闇を感じる」そんな紺野さんの瞳に見えていればとても幸いです。
――今回紹介させていただいております第1話の中で、特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
Ru:ゆにまる。が暑いなか節約のためホットコーヒーを頼んだのに、紺野さんは値段を見もせずにミントレモネードのおかわりを頼むシーンです。たった数十円、数百円を削りながら生きているゆにまる。と、裕福なお嬢様の紺野さんの差異が残酷で良いシーンだと思います。
宮原都:作画的な部分で言うと最後の2ページでしょうか。
全体でしている表現なのですが、紺野さんには常に光が当たり、ゆにまる。には影を落とす…それによって二人の”格差”を表していて、ラストはそれがより濃く感じられると思います。
セリフは最後の「どうせこの人は“異世界”に住む人間なのだから」です。ゆにまる。の諦めと不穏さを感じられ、キラキラした人たちを”異世界”と呼ぶ表現はRu先生特有の面白さだと思います。
――今作の宮原都さんの投稿には、読者から多くの“いいね”やコメントが寄せられていました。今回の反響をどのように受け止めていらっしゃいますか。
Ru:とてもありがたく、嬉しく思います。『夏レモ』は刊行後半年以上経った作品ですが、こうしてまだ話題にしていただけることは本当に嬉しかったです。
宮原都:たくさん見ていただけたようで本当に嬉しかったです。やはり「お葬式で遺書を読み上げて欲しい」というインパクトのある題材とRu先生の丁寧な言葉選び・構成力が多くの方を惹きつけたのではないでしょうか。それに私の絵が加わって読んでくださる方が増えたのならば、これ以上光栄なことはないと思います。
――今後の展望・目標をお教えください。
Ru:漫画原作者に加え、小説家としても活動できたらと思っています。
生きるのが苦しい、幸せになりたい、みじめなままではいたくない、そんな気持ちを描き出し、つらい思いをしている人を肯定できるような作品を書きたいと思います。
宮原都:読者の方々の心に刺さる作品を目指して、今後も漫画を描き続けたいです。
――最後に、読者やファンの方へメッセージをお願いします。
Ru:読んでくださってありがとうございます!反応や感想など、いつも励みになっております。
今後とも精進いたしますので、応援いただければ幸いです。
宮原都:この度は『夏とレモンとオーバーレイ』を読んでくださり、ありがとうございました。SNSやお手紙などで読者の方々の応援のお言葉を受け取るたびにこの作品の素晴らしさを実感します。
これからも、風の温度が変わる夏の終わりに『夏とレモンとオーバーレイ』を思い出して愛してくださると嬉しいです。