声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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辻村深月さんの新刊が出ると聞くと嬉しくなり、必ず手に取る。
そして、辻村さんの描く世界と言葉たちに魅了される。こうして本を開くたびに好きになれる言葉が詰まっている作品と出会えるのは奇跡だ。
今回私が紹介する辻村深月さんの「この夏の星を見る」はコロナが蔓延し始め緊急事態宣言が発表された2020年の茨城、東京、長崎の中高生たちにフォーカスを当てている作品だ。コロナが蔓延してからの時の流れは、表現するのが難しく、なんだか一年経ったという感覚ごと消されてしまっているような感じが私にはある。
2020年よりも前かそれ以降という数え方になっていてとても切ない。コロナが蔓延し始めたあの頃よりはかなり緩和されているが、それでも2020年を過ごした学生たちにとって、誰にも愚痴を言うこともできずにただ時間が過ぎるのを眺めているもどかしく悔しい年だったはずだ。
私の従姉妹も楽しみにしていた修学旅行の場所が急遽変更され、市内を回っていた。作中にも何度も出てきたガイドラインなどが存在しないからこそ、大人たちの采配次第で決まってしまうから中止にならない学校もあればあきらめてしまう学校もあるという表現は読んでいて本当に苦しくなり、当時の学生たちの大切な思い出の時間がなくなる瞬間はシャボン玉が割れるくらい儚く一瞬で消えてしまったのだなと思わされる場面ばかりだった。
私たち演者も稽古が2週間経過した段階で稽古場で「残念ながら中止という決断になりました」と言われたり、あと少しで初日というところで中止になったり、それが続くと絶望がいつの間にか諦めに変わってしまっていた。
「英断」「御一読」という言葉もよく見かけるようになった。
こんなにも幕が開くこと自体が奇跡だと痛感する年はなかったと言っても過言ではない。
それでも本作の学生たちのようにこんな状況でも何か形になることが出来ないだろうかと動いていた。作中の彼らにとってそれが星や天体だったように、私たちは演劇の火が消えてなくなってしまわないよう、濃厚接触をせずに開催できる方法を模索していた。
リモート朗読劇や、無観客での舞台公演、マウスシールド・フェイスシールド着用の舞台、そしてそれらの公演は稽古時間を極限まで減らして挑む。気づけばそれらが懐かしいと思えるようになっていたが、あの時は何もかもが必死で、「今後舞台やライブというエンタメが消えてしまうんじゃないか」という不安と隣り合わせだった。
私たちにとってそうだったように、学生たちは班で机をくっつけてご飯を食べることなく卒業をしてしまったり、文化祭もクラスの出し物などコロナ前のように開催ができなかったり、3年間のうち一度しか文化祭を経験が出来なかった子も中にはいるだろう。
そんな彼らの戸惑いや不安、言葉で表現できないようなモヤモヤぐちゃぐちゃした気持ちが繊細に描かれていて深呼吸することが出来なかったあの時間を星を通して各地の学生たちと繋がり、普段だったら経験ができないことも自分の行動次第で変われる、変えられるという願いのような想いが伝わってきて辻村さんの学生に寄り添ってくれる言葉たちがコロナを経験した人みんなに届いてほしいと読了後強く思った。
辻村さんの言葉で綴られる学生たちの心情にこんなにも惹かれるのは、過去の自分が言語化出来なかった感情が表現されているからなのだろう。
今日は、大きく深呼吸をして、夜には空を眺めたいと思う。
https://ddnavi.com/serial/sato_hinata/
佐藤日向(さとう・ひなた)
12月23日、新潟県生まれ。
2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な出演作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、
『ラブライブ!サンシャイン‼︎』(鹿角理亞役)、『D4DJ』(福島ノア役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(暁山瑞希役)、『ウマ娘 プリティーダービー』(ケイエスミラクル役)など。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。