匂い立つ狂気と闇。 だけど愛すべき僕らの「窪田くん」
年齢を重ねても、いつまでも「くん」付けされるタイプの人がいる。童顔であったり、親しみやすかったり、貫禄がなかったり、頼りなさげであったり、理由はその人によって様々だが、「窪田くん」こと窪田正孝もそのひとりである。ただ彼の場合、「頼りなさげ」とは真逆。ドラマにおいて、彼ほど頼りになる存在はいない。たとえ、正直全体的な出来の悪い作品があったとしても、窪田正孝が演じる人物だけは魅力的で、彼が出ているシーンは、輝きを放っているから見てしまう。どんな役でも自分のものにし、その人間が実在しているかのようなリアリティを与えてくれる。
だから、28歳の窪田正孝が『僕たちがやりました』(フジ系)で高校生役を演じるというニュースが流れてきても、別に驚きはなかった。
ドラマや映画において実年齢とかけ離れた役者が起用されることは少なくないが、コメディならともかく、シリアスなドラマの場合、危険だ。しかも、脇の個性的キャラクターではなく、主人公。絶対に高校生に見えないといけない。こういう場合の違和感はドラマへの集中を阻害してしまう。だけど、彼なら難なく本当の高校生のように演じきってくれるはずだという絶大な信頼感がある。
思えば、窪田は本格的な俳優デビューが高校生役。もちろん、この時は実年齢に近い。『チェケラッチョ!! in TOKYO』(フジ系)の主演だった。脇から徐々にステップアップして……みたいな苦労人のイメージがあるが、実は最初からメインを張っていたのだ。同じく高校生役で主演というと印象深いのが2008年4月から2009年3月まで1年にわたって放送された特撮ドラマ『ケータイ捜査官7』(テレビ東京系)だ。三池崇史がシリーズ監督を務めた同作は、麻生学、小中和哉、鶴田法男、押井守、金子修介といった名だたる監督も参加。1年の間で窪田は主人公のケイタ同様、役者として急速に成長していった。この頃から彼を見守り続けているファンも少なくないだろう。いわゆる「特撮」出身で人気になった俳優は数多いが、やはりそれは多くの人が成長を「見守る」ことができるからに他ならない。「くん」付けしてしまうのもそのせいかもしれない。実際、ナイーブさ、コミカルさ、アクション……と、長丁場の中で変幻自在に演じ分け、その後の彼が演じる多彩な役柄の原型をこの作品で形作ったといえるだろう。
中でも、窪田正孝の最大の魅力は、なんといってもその繊細さ。繊細さゆえに、狂気をもはらんでしまう若者を演じさせたら、右に出る者はいない。透明感と底知れぬ闇を同時に表現できる、稀有な俳優だ。
『僕たちがやりました』に際して寄せたコメントでも、彼は「内面の葛藤や苦しみを描く部分も多くて、ああ、やっぱり僕のこういう顔を見たいんだな、と思いました。誰も僕の幸せを願ってないんだなと(笑)」と自ら語っているとおり、苦悩がこれほどまでに似合う青年はなかなかいない。屈折した光を放っている。たとえ、おちゃらけた役を演じていても、どこかで葛藤を抱えているんだろうなと勝手にこちらが想像してしまったりする。
◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊SPA!」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』、『タモリ学』など