数々の賞を受賞した不思議で可愛いラブストーリー
本作は、台湾ニューシネマの異端児と呼ばれたチェン・ユーシュン監督が20年前からあたためていたという脚本をもとにしてつくられた。2020年に台湾で公開されて好評を博し、台湾アカデミー賞こと第57回金馬奨では、劇映画作品賞や監督賞など、その年最多の5部門を受賞している。
ポップで可愛くて、ノスタルジックで切ない。そして、見る人によっては「怖い」「まるでホラー」とも捉えられる”あやうさ”がにじむ。「熱帯魚」「ラブゴーゴー」など、愛すべきはみだし者たちをユーモアを交えた独特なタッチで描いてきたチェン・ユーシュン監督の本領発揮といえる、非常に“らしい”作品だ。
ぶっ飛んだファンタジーながら、序盤で描かれるシャオチーの現実味あふれる冴えなさっぷりや、手紙・ラジオ・ヤモリというレトロな道具立てが、台湾の美しい海辺の風景と溶け合って、リアリティを欠きすぎない”ちょっと不思議な物語”として成立している。
台湾のバレンタインはなんと年に2回
本作品に出てくる台湾の街並みはどこか昔の日本的な懐かしさがあるが、文化や生活にはやはりふとしたところに異国情緒がただよう。
例えば、日本版リメイク「1秒先の彼」は今年の7月7日に公開された。これは、「1秒先の彼女」でシャオチーがなくした1日が、バレンタインはバレンタインでも”七夕バレンタインデー”であったことにちなんでいるのだろう。
台湾には2月14日のほかに、旧暦の7月7日に「七夕情人節(チャイニーズバレンタインデー)」という恋人同士のための日がある。男性が女性にプレゼントを贈る慣習があり、2月14日よりもむしろ盛り上がるのだとか。さらに近年では、「3月14日もホワイトデーではなく、バレンタインデー」「5月20日は、愛しているを意味する我愛你(ウォーアイニー)と発音が似ているからバレンタインデー」とバレンタインが増殖しているようだ。
ほかにも、屋台で夕飯を買って帰ったり、そのおまけで付く持ち帰り用スープがビニール袋にたぷんたぷんに入っていたり、公園にエアロビクスのようなダンスを踊る集団がいたりと、日本と近いようで異なる光景、異なる文化が垣間見えるのが、台湾映画の見どころの1つだ。