未知のものを遠ざけようとする心理が描かれる
――本作はXというわからないものに対して、遠ざけようとする群集心理が描かれていますが、共感できましたか?
上野:コロナにより隣の人の顔もマスクで見えないという状況になって、近くにいるのに漠然とわからないという感覚はすごくわかります。私は、2021年に地元・加古川の観光大使になったんですよ。それで小学校とかに訪れたりすると、コロナにより入学から卒業するまでマスクをしないといけなかったり、学校行事など楽しみにしていたイベントができなくなったりという声が聞こえてきて…。そういう声に触れて、いろいろ考えさせられているときにこのお話を聞いて、すごくわかると思いました。
――どのあたりに共感したのですか?
上野:昨今は色んなことがあり、知らず知らずのうち、ありのままの自分を愛せなくなっている人が多い気がします。そして自信がないから何かを買ったり、知識を入れたりして自分自身を取り繕うのですが、でもそれは完全ではないんですよ。もっと自分自身の個性を伸ばしていくことの方が大切で。私は、そのことにこの作品に触れて改めて気づかされました。多くの方も、この映画を観た後、自分も知らず知らずのうちに加害者にも被害者にもなっていると感じるんじゃないかなと思います。
林:SNSなど画面を通して人と時間を共有する時代になって、簡単に人を傷つけたりすることが多くなっていると思います。それは他人にだけではなく、どうしても自分自身に向かっていて…。人と自分を比べたり、ネガティブな思いを抱きやすくなってきていると感じるのですが、それって必要のない感情で。この映画でも、良子さんのような人を普通じゃないと思う人がいて、良子さん自身もそう思っている。そんな姿を見ていると、とにかく自分を否定せずに、もっと自分を肯定してあげる気持ちを持ってほしいと思いました。だって良子さんのような人だからわかってあげられる人もいるわけで。そんな、常日頃から自分自身がこうありたいとか、一人一人の心がけがこうなればいいなということに気づかされる作品だと思いました。
林が熊澤監督からもらった言葉
――この作品と出合って自分の中で変化した部分はありましたか?
林:僕は熊澤監督と芝居を始めたばかりの10代のときに映画でご一緒して、そのときに「役になろうとするのではなくて、役に自分を近づけるんだよ」と言われたんですよ。その後も、あの言葉はどういうことなんだろうと思いながら模索しながら芝居と向き合ってきたんですが、30代に差し掛かる年齢になって、これまでのような“役に対して何にでもなれるんだ!”みたいな気持ちに対して疑いを持つようになっていって…。これからやり続ける上で、自分自身が日々感じていることや人の価値観や考え、社会や歴史などの色んな知識が自分をつくっていき、それが役として出ていく、それが俳優業なんだと気づいたというか。そこで熊澤監督の言葉を思い出したんです。やっぱり俳優は自分自身が出てしまう仕事なので、そういうことを言っているのかなって。樹里さんの作品に対する姿勢のように、自分と役を近づけていく大事さというか。今回、樹里さんとご一緒できて、それを体現している人なんだと気づけたし、そうやって役をつくれたのはすごく楽しかったです。
上野:撮影中に遣都くんが「僕は色んな作品を知らなくて…」と話していたよね。そんな遣都くんの話を聞いて、妥協せずに生きている人だなって思いました。それって、役を与えられたときにすごく大事なことで、いいなって。ちなみに共演して感じたのは、いい意味で不良性があるなと。こういうのって共演してみないとわからないので、それを知れたのもよかったと思いました。なんか自分自身とも厳しく向き合っていて、幅広いなと感じられたので。共演できてやっぱり面白いと感じられたのはいい変化かなと思います。
林:それは僕もですよ。映画を見直したときに人物が本当に完成していると感じました。これって樹里さんの作品の作り方だからできたことなので。今回、樹里さんと熊澤監督とご一緒できて本当に勉強になりました。僕の中で得たものはすごく大きかったと思います。
12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国ロードショー
出演:上野樹里、林遣都、
黃姵嘉、野村周平、川瀬陽太/嶋田久作/原日出子、バカリズム、酒向芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社
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