コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回はフィビ鳥さんの『愛しのゾンビ』をピックアップ。
弟を亡くした姉と、亡くなってもなお姉のことを見守り続ける弟の不思議な物語を描いた本作。10月8日に作者が自身のX(旧Twitter)に投稿したところ、7.3万以上の「いいね」が寄せられ大きな反響を呼んだ。この記事では作者であるフィビ鳥さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
亡き弟の骨を押入れに安置した姉 2人が紡ぐ不思議な物語が「少し怖くて物悲しい」
姉の梓紗(あずさ)には、13歳で亡くなった弟・友樹がいた。友樹が梓紗と同じ中学に通うことになったため、入学式当日、梓紗は母から「一緒に連れていって」と頼まれる。しかし駅に着くと梓紗は別々の車両に乗ろうと告げ、2人は別れて登校することに。その後、友樹は混雑により駅のホームから押し出され線路に落下してしまい、特急列車にはねられて命を落としてしまったのだった。
バラバラになった遺体は駅員と警察によって回収されたものの、全部は見つからなかった。葬儀を終え、しばらくして梓紗が線路沿いを歩いていたところ、ふと柵に引っかかった小さな骨を見つける。梓紗はそれを友樹の骨だと信じて疑わず、持ち帰って洗面所で洗うと押入れの中に寝床を作って安置した。
それから、梓紗が晩御飯の残りを押し入れに置くと翌朝には消えていたり、何度も話しかけるうちに返事をしてくれるようになったりと、梓紗は徐々に友樹の“存在”を感じ始める。そしていつしか2人は普通に会話をするようになり、梓紗が弱音を吐くたびに友樹は押入れの中から何かと言葉をかけて追い立てていた。
時は流れ、就職して家を出た梓紗は押入れの中身も引っ越し先に持っていくことに。押入れの中にいる友樹との生活が続くある日、失恋した梓紗を友樹はいつになく責めたてる。「会社休んだら?」とまで言う生意気な弟に「うるさい」と言い返し、いつも通り出社する梓紗。しかし、次に気がついたときには煙が充満する社内に一人取り残されていた。逃げ場もなく、もういいや、と梓紗が諦めかけたそのとき、目の前に電車のドアが現れて…。
亡くなった弟の存在を感じながら“生かされる”姉の不思議な物語を描いた読み切り作。物語の終盤、予想外の展開も話題を集め、X(旧Twitter)上では「切な怖い」「少し怖くて物悲しい」「めちゃくちゃ良い」「淡々と進む物語に現実感を感じる」「いい虚無感」「極上の小説を読み終えた後のような感覚」など読者からのコメントが多く寄せられ、大きな反響を呼んでいる。
日々の習慣である“空想”を漫画に 作者・フィビ鳥さんが語る創作の背景とこだわり
――『愛しのゾンビ』を創作したきっかけや理由があれば教えて下さい。
これといったきっかけは思い当たらないのですが、押入れ、駅のホーム、死骸、小さいころ見たアニメなど、いろんな記憶がごちゃまぜになってこういう形で出てきたのかもしれません。
――本作をX(旧Twitter)に投稿後、7.3万を超える「いいね」が寄せられました。今回の反響について、フィビ鳥さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
姉の心情に思いを馳せてくれる方が多くて、やさしいなとおもいました。
他の作品に感想をもらうときも、やさしいコメントをくださる方が多いです。
――弟・友樹の亡き後も変わらず淡々と続く日々の中で、弟の存在を身近に感じながら生きていくという不思議な物語が印象的ですが、本作を描くうえでこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
押入れです。
押入れやクローゼットはたいがいの家にあると思います。この作品を肴に、いろんな方の押入れにまつわる思い出を聞いてみたいです。
――本作の中でご自身が特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
持ち帰った骨を洗浄するシーンです。洗わずにそのまま祀ることもできたのに、あえて洗うところに彼女の性格が出ている気がして気に入っています。
――フィビ鳥さんは他にも『雨が止むまで待って』や『帰郷』、また伝記風のフィクション漫画など、さまざまな短編物語を唯一無二の世界観で描いていらっしゃいますが、創作活動全般においてのこだわりや特に意識している点がありましたら教えてください。
短編漫画の場合、セリフやページができるだけ少なくなるよう、削れるものは削るようにしています。削りすぎると伝わらなくなるので、塩梅が難しいです。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
空想は日々の習慣みたいなものですが、そこからペン入れなど頑張って漫画にしようと思えるのは、感想や応援の言葉をくれる方々がいるからです。活力です。ありがとうございます。