“ヨル無双”で花火のように散っていく殺し屋たち
マシューがヨルと合流するも、状況は依然として変わらず、まだまだ多くの殺し屋たちに囲まれたまま。マシューは殺し屋たちの腕前に一定の評価を与えつつも「われわれガーデンの敵ではないな」と一蹴、ヨルに「根絶やしにするぞ」と命令する。こうしてヨル&マシューvs殺し屋たちの戦いの火蓋が再び切って落とされる。アーニャ(CV:種崎敦美)が色とりどりの花火に「ぶらぼーっ!!」と歓声をあげるその裏で、ヨルとマシューは大勢の殺し屋たちを圧倒していく。そしてとうとう残り数人にまで敵を減らしたヨルは、手についた大量の血を振り払い「ちょっと突き指しちゃいました…」と痛そうに呟く。ヨルの人間離れした強さを目の当たりにした殺し屋たちは、ただ呆然とするしかなかった。
中盤で描かれる殺し屋たちとの戦いは、シリアスで王道路線だった前半戦とは異なる演出で、オリジナリティがより溢れるバトルシーンに仕上がっている。優しく包み込むような歌声が響く挿入歌はまるで鎮魂歌(レクイエム)のようでもあり、夜空を埋め尽くす花火の荘厳な背景や、それを楽しむ観客の表情などとも相まって、壮絶なはずの戦闘シーンが、どこか幻想的で儚いショーのようにも映る。また後半に入るとよりコミカルな描写が増えていき、悲壮感を感じさせないのも面白い。そして、その立役者が殺し屋たち。みな個性的なキャラばかりで、一瞬の輝きを見せたのちに花火のように散っていく彼らの魅力あってこその今回の“ヨル無双”だったように思う。ヨルとマシューは(映像で確認できるだけでも)30人を超える殺し屋を始末していることになるが、残酷さや恐怖に頼らない演出のおかげで、純粋にヨルの無双っぷりに酔いしれることができたのかもしれない。ちなみにSNSでも「ヨルさんやっぱり人間をこえてる」「もはやギャグじゃん」など、あまりの強さに視聴者も驚きを隠せない模様だ。
原点を思い出し、覚悟を決めたヨル
ついに数人を残すのみとなった殺し屋たちだが、ついに彼らの切り札である刀使い(CV:小松史法)が登場し、三度目の激しい戦いが始まる。不意を突かれたマシューは一撃で戦闘不能となってしまい、ひとりで刀使いと戦うヨル。かなりの強敵であることを確信したヨルは、大けがを負うことを躊躇し、再び足が重くなってしまう。そんなヨルの動揺を見抜いた刀使いは、そのスキを見逃さずに決定打を与える。壁に打ち付けられて朦朧とするヨルは、すでに自分が殺し屋を続ける意味はなくなっていると考え、このまま殺し屋をやめることも頭を過ぎる。しかしその土壇場、殺し屋になった原点を思い出したヨルは再び立ち上がり、斬撃を胸に食らいつつもカウンターを決め、見事に復活を果たすのだった。
クライマックスの見どころはヨルの“迷い”と“覚悟”。この豪華客船編のメインテーマでもある「戦う理由に悩むヨル」へのアンサーとも言える場面だ。自分の正体が知られるとフォージャー家の一員ではいられなくなるため、深傷を負わないよう戦いに躊躇していたヨルだったが、そもそも自分がなんのために殺し屋になったのかを思い出す。それは、弟(ユーリ)の他愛のない暮らしを守るためであり、ひいては大切な誰かの他愛ない暮らしを守るためだった。そしてヨルは、そのためであれば、例えフォージャー家から離れることになっても構わないという覚悟を持つに至る。この一連のシーンは、ヨルを演じる声優・早見沙織の芝居がとくに光っている。喉元に刀を突きつけられ、朦朧とする意識のなかで「あらあら殺されそうです、どうしましょう…」と他人事のように呟くセリフから始まり、覚醒していくにつれて徐々に言葉に生気が宿っていき、ラストの「私は、戦うことをやめないッ!!!」のセリフには力強さが満ち満ちている。早見の繊細な芝居が、ヨルというキャラクターの解像度を一段と高めてくれている。
なお、エンディング主題歌が流れた後には、「姉のハーブティー」も放送。ヨルのドラマがシリアスの頂点に達した直後だけに、コメディに振り切ったユーリの小噺は一服の清涼剤といったところだろう。さて、次回「MISSION:34」は、12月2日(土)放送予定。期待して待とう!
※種崎敦美の崎は、正しくは「たつさき」
■文/岡本大介
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