コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、12月2日に発売された吉本ユータヌキさんの短編集「あした死のうと思ってたのに」(扶桑社)から、過去のいじめを笑い話にされた主人公が、1つ願いを叶えられる力を手に入れ、いじめた相手に”ある行動”を取るまでを描いた『心の傷は』をピックアップ。
吉本ユータヌキさんが9月26日に本作『心の傷は』をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、7.7万件を超える「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、作者・吉本ユータヌキさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
いじめを笑い話にされてぶん殴りたい…主人公の前に現れた1つ願いを叶えてくれる謎の生物と一緒に、いじめっ子にした行動とは
「あん時はいじめてごめんな 反省してるから許してよ」主人公“ぼく”は、高校卒業20周年の同窓会で、高校時代にいじめをしてきた加藤に謝られた。ぶん殴りたいという想いを飲み込み、乾杯をしたあとトイレに駆け込む。イライラがつのり舌打ちをするぼくに、黒い謎の生物が話しかけてきた。「なんで殴りたくなったの?」と尋ねる生物は、“酔っぱらっているせいで見えるもの”らしい。イライラの話を聞かせてくれたら、なんでも1つ願いを叶えると交渉してくる。「君の代わりにあいつをぶん殴るでもいいよ」と言う。ぼくは沈黙を破り、話し始めた。
高校2年生のときサッカーをしていて、ぼくが蹴ったボールが加藤の頭に当たってしまった。謝るものの、「一生許さねえ…」と言われてしまう。それから毎日嫌がらせをさせるようになったぼく。やめてと言ってもやめてもらえず、周りに見てみぬフリをされる。大学、就職先でも人を信じられなくなり、ずっと1人で苦しく辛い想いをし続けた。加藤にとっての笑い話は、ぼくにとって治らない傷となっていた。
話を聞いた謎の生物は、ぶん殴るだけでは足りない、会社をクビにする、離婚させる、帰りに事故を起こすこともできるが、加藤をどれだけ傷つければ許せるかと問う。ぼくは再び「じゃあ…」と口を開く。
ぼくの頼み事とその行動に、読者からは「それで良い」「そりゃそうだ」と納得の声が。本作を通し、コメントでは、似たような境遇の体験やいじめっ子といじめられっ子の認識の違いについて多くの読者が唱えていた。「この世に許される罪などない」「一生許さない」「心の傷は治んない」と共感を呼んだ。
「心の傷は残り続ける」いじめの罪深さを再認識させられる作品 作者・吉本ユータヌキさんに背景を語っていただいた
――「心の傷は」を創作したきっかけをお教えください。
昨今、SNSでの誹謗中傷の話題を目にする機会が増えてきたように思うんですが、その度に、自分が中学時代に同級生からいじめられていた時のことを思い出して、人が人を傷つけるということがなくなればいいのにと思っていました。
漫画の中でも描いてますが、心の傷は絶対に治ることはないと思っています。僕自身20年前のことを今でも思い出して苦しくなるように、消化することも、忘れることもできなくて、傷ついた側はずっとその黒い過去を抱えて生きていかなければいけないと思うんです。
そう思いながらも、どうにかしたいという気持ちはあって、何かが少しでも変わればいいなという想いで今回漫画にしてみることにしました。実際に描いて、SNSに出してみると、読んで共感してくれる方がいたおかげで、また思い出して苦しくなりそうになっても「でも、漫画にできたからな」と、ちょっとだけ思い出の見え方が変わり、ただ苦しいだけのものではなくなりました。
――キャラクターデザインや描写のこだわりなどございましたら、お教えください。
今回は自問自答で話が進んでいく物語が描きたくて、黒い謎の生物を描くことにしました。強いこだわりはなかったのですが、自分の中にはいろんな自分がいるってことが、やんわりと伝わればいいなと思い、特定の人物を描くわけではなく、謎という形で作りました。
――「心の傷は」の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由とともにお教えください。
やっぱり「許さない」と言えた場面は気に入ってます。実際は絶対に言えないので。これは僕の願望でもあって「こう言えたらいいな」を描いたので、たくさんの共感のコメントをいただけたおかげで、本当に言えた気持ちになりました。
――「心の傷は」をはじめとして、深く考えさせられる作品を多く描いていらっしゃいますが、発想はどのように生み出されるのでしょうか。
普段の生活の中で強く感じたことは、何日もずっと考えるクセがあるんです。ネガティブで優柔不断なので、なかなか結論づけることも、行動することもできないんで、いろんな角度から見て考えていて、そんなタイミングでシチュエーションが思いついたら漫画にしてみるという感じなんです。なので、その時にハマってることとか、見たテレビや動画の影響が大きくて、わかる人には「あ、あれに似てるね」って言われることもあるんです(もちろん丸パクリはしないです)。
――今後の展望や目標をお教えください。
引き続き、日々感じることや、しんどかった過去を漫画にして、楽に生きられるようになりたいです。そしてそんな作品が読んでくださる方にとっても、心の拠り所になれたらいいなと思っています。
――最後に作品を楽しみにしている読者やフォロワーさんへメッセージをお願いします。
いつも漫画を読んでくださって、ありがとうございます。作品のテーマは暗く、重いものが多いんですが、僕自身は今まで描いてきた10年間の中で今が1番楽しく描けています。なので、これからもいい意味で軽やかに、たくさん作品を作っていきたいと思ってるので、楽しみにしててもらえると嬉しいです。