日高のり子の名演が心に迫る
猫猫に真相を言い当てられた風明に狼狽する様子はない。彼女は淡々と、阿多妃と出会った時の衝撃を猫猫に語る。親に言われるがまま侍女となった風明にとって、女性でありながら確かな意志を持つ阿多妃は尊敬以外の何者でもなかった。
「なのに私は、阿多様の一番大事なものをこの手で奪ってしまったのよ!」
それを口にした途端、風明は感情を露わにする。彼女がやってきたことは決して許されることではない。けれど、後悔や罪悪感とともに一人で秘密を抱える苦しみはどれほどのものだったのだろう。風明の号哭は、声優・日高のり子の名演も相まって強く心に迫るものとなった。
その後、猫猫の提案により、「四夫人の座を保つため」という動機で里樹妃に毒を盛ったのは自分であると自首した風明。もう一つの動機を隠したまま、彼女は絞首刑に処された。結果は変わらないが、風明は阿多妃に皇子の命を奪ってしまったことを知られずに済んだのである。
自分にできる最大限を尽くした猫猫は外壁に登り、物思いに耽っていた。そこにやってきたのが、翌日に後宮を去る阿多妃だ。阿多妃は猫猫と月見酒を交わし、「お情けでやっていた飾りの妃を 早く誰かに受け渡したかった」と独白のような本音を語る。
その後、献杯を捧げるかのように下女が飛び降りた堀へ酒を零す阿多妃。下女は風明に嫌疑がかからぬよう、自ら犠牲となって自殺したのだろう。阿多妃もきっと、そのことを知っていた。「皆 莫迦(ばか)だ」という彼女の言葉は自分への忠誠心ゆえに間違いを起こした侍女だけではなく、妃の座にしがみついていた己自身にも向けられたものなのだと思う。その背中は哀愁に満ちていた。
「寒いから…やだ」子供みたいな壬氏にキュン
阿多妃を見送った後、外壁を降りる途中で何者かに声をかけられて、思わず足を滑らせた猫猫。落ちた先は壬氏の膝の上だった。すぐにどけようとする猫猫だったが、壬氏に突然後ろから抱きしめられる。抵抗しても、「寒いから…やだ」と一向に猫猫を離そうとしない壬氏。これには、視聴者も大興奮。SNSでは、「壬氏様かわいいなあ」「大塚さんボイスやばいなこれ.....」「壬氏キュン死回」という声が挙がった。
その直前に阿多妃と酒を酌み交わしたという壬氏。阿多妃が後宮を離れる寂しさからなのか、壬氏は珍しく涙を流した。翌日、何事もなかったかのように壬氏は阿多妃の見送りに現れる。二人が並んだ姿を見て、阿多妃が誰かに似ていると思っていた猫猫はその答えがようやく分かった。
壬氏と阿多妃…猫猫が立てる仮説とは
あまりにも容姿が似通っている阿多妃と壬氏を前にして、「あの二人、服装を入れ替えたほうがよっぽど」と思った猫猫の頭にある仮説が浮かぶ。それは、「ほぼ同時に生まれた皇弟と妃の子ども 二人がもし取り替えられていたとしたら?」というものだった。出産を後回しにされたことで、どちらの赤子が大事に育てられていくかが身に沁みて分かった阿多妃。産後の肥立ちが悪い彼女にとって、なにが正しいのか判断などできなかったのかもしれないと猫猫は推測する。
その後、本物の皇帝が死んだ後で入れ替わりが発覚したのであれば、羅門が片膝の骨を抜かれる肉刑まで受けた理由も納得がいく。そんな猫猫の仮説をただの妄想と吐き捨てるには、あまりにも筋が通っている気も。果たして、壬氏と阿多妃が似ているのもただの偶然なのだろうか。
真実はわからないが、阿多妃は清々しい表情で後宮を去っていく。その直前に追いかけてきた里樹妃に向ける阿多妃の顔が母親のように見えた猫猫。かつては里樹妃を貶めようとしていた侍女が心から里樹妃を心配する様子も含め、第11話ではドロドロとした後宮の中にもある温かな人間関係が垣間見えた。しかし、一難去ってまた一難。処刑された風明の一族と関係者の名簿に猫猫の名前が。彼女の行く末が危ぶまれる。
※日高のり子の高は、正しくは「はしごだか」
◆文=苫とり子
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