ドラマ・映画プロデューサーとして第一線を走り続ける村瀬健氏の初の書籍「巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術」(KADOKAWA)が、12月4日に発売された。村瀬氏は現在放送中のドラマ「いちばんすきな花」(毎週木曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)をはじめ、「silent」(2022年、フジテレビ系)、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016年、フジテレビ系)や、映画「帝一の國」(2017年)など数々のヒット作を生み出してきた人物。「いちばんすきな花」のクランクアップ間近の年の瀬に、ドラマの撮影秘話も交えながら書籍について語ってもらった。
プロデュースの力、役者の力、演出の力…チームプレーで成し遂げた名場面
――そろそろドラマ「いちばんすきな花」がクランクアップというタイミング(インタビューは12月中旬に実施)ですが、撮影は順調でしょうか?
スケジュール的には最終回の直前ギリギリまで粘ることになりそうです。僕の仕事のスタイルだと、いい作品を作るためには粘ることが必要ですから。
――ドラマが終盤に入って、キーパーソンの志木美鳥役で田中麗奈さんが出演したことも、SNSなどで注目を集めましたね。
田中麗奈さんは本当にばっちりハマった会心のキャスティングになりました。劇中で主人公の4人が語った美鳥は、それぞれ別人に思えるほど印象が異なる人物像でしたが、そういう多面性をスッとふに落ちる形で田中麗奈さんに演じていただきました。これはもちろん、田中麗奈さんの女優としての力量があってこそ。キャスティングした僕も手応えを感じました。
――今回の書籍の中では「いちばんすきな花」や「silent」など、村瀬さんが手掛けてきたドラマのキャスティングやオーディションにまつわる裏話も明かされていて、とても興味深かったです。
最近だと、第8話で田中麗奈さん演じる美鳥の中学生時代を演じた上坂樹里さんも、オーディションで抜てきした子役さんです。美鳥という役はドラマが急展開していくカギとなる女性ですが、彼女の回想シーンを上坂樹里さんに演じていただきました。
正直なところ撮影前は子役に任せるのが少しだけ不安だったんですよ。でも、そんな不安は杞憂(きゆう)でしかなく、仕上がった回想シーンはすごく胸を打つものになりました。その回想シーンには、田中麗奈さんはいないし、多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さん、神尾楓珠さんの主役の4人もいない。それでも、子どもたちだけが出演しているその回想シーンは泣けるものになりました。
上坂樹里さんを起用できたのも大きかったし、監督の高野舞の情緒たっぷりの演出の力も大きい。今回の本に「ドラマ作りはチームプレー」というフレーズが何度も出てきますが、この回想シーンもプロデュースの力、役者の力、演出の力、そういったものが相乗効果を発揮した、まさにチームプレーで成し遂げた名場面だったと思います。
僕が脚本家に求めるのはせりふ回しよりも「目線」
――「いちばんすきな花」のオンエア後には、SNSで「あのせりふがよかった」といった視聴者からの投稿もたくさん見かけます。やはり、せりふ回しはこだわっている部分なんでしょうか?
せりふについては脚本家の生方美久さんが書いてきたものを、ほぼそのまま生かしています。なぜなら僕は生方美久さんという脚本家をめちゃくちゃ信頼しているから。ストーリー構成などは相談したり手直ししたりしますが、せりふについては直す必要がないと思っています。「silent」でデビューして「いちばんすきな花」が2作目という新人脚本家ですが、役者さんからも信頼されていると思います。
よく「せりふ回しに脚本家の色が出る」みたいなことが言われてたりしますが、僕が脚本家に求めるのはせりふ回しよりも「目線」なんです。どういう目線で世の中の出来事を捉えているのか。その目線で捉えた出来事をどう描こうとしているのか。そういう根っこの部分にある感性を僕は重要視しています。
その点で、生方美久さんの目線や物事の捉え方、そして描き方は、僕にとって100%共感できるものです。そして、それはこれまでのドラマになかった目線なので、観てくださっている視聴者の方には新鮮に映っているんだと思います。だから彼女が書くドラマは人々に響くんだと思います。
言葉にできない感情を言語化するというか、なんとも言いようのないぼんやりとした、だけど誰もが感じている"想い"を、生方美久さんが脚本という形で表現してくれる。だから「ああ、こういう感覚、あるよね」と視聴者にも感じてもらえるのだと思います。