ディズニー創立100周年を記念したアニメーション映画「ウィッシュ」が、全国の映画館にて公開中。物語の舞台はどんな願いもかなうとされる魔法の王国“ロサス”で、主人公はそこで暮らす少女・アーシャ。彼女の願いは100歳になる祖父サビーノの願いがかなうこと。ある日、アーシャは魔法でみんなの願いを叶えてくれるはずのマグニフィコ王がみんなの願いを“支配”しているということを知ってしまう。みんなの願いを取り戻したいと星に願うと、願い星のスターが彼女のところに舞い降りてくる。勇気をもって“ディズニー史上最恐”のヴィラン、マグニフィコ王に立ち向かう“星に選ばれた少女”アーシャの日本版声優を務めるのは生田絵梨花。この作品で才能を遺憾なく発揮している彼女の魅力に迫る。
幼少期から音楽の道を志す
生田は1997年1月22日にドイツのデュッセルドルフで生まれた。姉の影響で4歳の時にピアノを習い始めたというから、幼い頃から音楽に親しみ、今につながる素養をその時から築いていたということだろう。5歳の時から東京で暮らすようになり、6歳の時にはミュージカル「アニー」を観劇し、ミュージカル女優になりたいと思うように。その後もピアノの他にクラシックバレエなども習い、将来は音楽の道に進みたいという目標に向かって進んでいった。
そんな中、アイドルグループ・乃木坂46の1期生オーディションを知ったことで、新たな選択肢が増えることとなった。歌、ダンス、ステージという共通点を見いだした生田は、オーディションを受けて合格。乃木坂46の1期メンバーとして2011年から活動を開始した。
グループ在籍中からピアノの演奏を披露する機会が度々あり、2014年には手塚治虫の漫画を原作にしたミュージカル「虹のプレリュード」で初主演。さらに、同じく手塚治虫の代表作「リボンの騎士」のミュージカル版で主人公・サファイア役を見事に演じ切った。
2017年には「ロミオ&ジュリエット」のジュリエットを、2017年と2019年の「レ・ミゼラブル」ではコゼット役を、2018年の「モーツァルト!」ではヒロインのコンスタンツェを演じ、グループの活動とミュージカル女優としての活動を両立させた。2019年にもミュージカル「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」にナターシャ役で出演したが、この役とコンスタンツェの演技が評価され、「第44回菊田一夫演劇賞」を受賞している。この頃からすでに、アイドルという枠を超えて、ミュージカルファンにも知られる存在となっていた。
2020年にも複数のミュージカルに出演が決まっていたが、コロナ禍のため、ヒロインのスワロー役を務めた「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド〜汚れなき瞳〜」は公演日数が減らされ、ヒロイン・宮園かをり役で出演する予定だったミュージカル「四月は君の嘘」は開幕目前に全公演が中止。この作品は時を経て2022年に上演され、好評のうちに幕が下ろされた。
乃木坂46卒業…さらなる飛躍へ
シングル表題曲では「何度目の青空か?」でセンターを務めるなど、常に中心メンバーの1人として10年間にわたって乃木坂46を支え、2021年の大みそかに出場した「第72回NHK紅白歌合戦」を最後に卒業。その時は「きっかけ」という楽曲でピアノ演奏を行うなど、生田らしいラストパフォーマンスを見せてくれた。
2022年、ここからが生田の新たなスタートとなった。個人の公式サイトを開設し、万全のスタートを切ると、同年4月から音楽番組「Venue101」(毎週土曜夜11:00-11:30、NHK総合)のMCに抜てきされた。かまいたちの濱家隆一とのコンビで番組を進行することで、トーク(話術)も成長したのではないだろうか。「ウィッシュ」公開直前の回では、生田はMCだけでなくゲストとしても登場し、「ウィッシュ〜この願い〜」を歌唱している。
また、同番組内では濱家とのダンス&ボーカルユニット「ハマいく」を結成。デビュー曲「ビートDEトーヒ」は配信リリースされ、TikTokなどのSNSでバズり、2023年12月31日(日)放送の「第74回NHK紅白歌合戦」(NHK総合ほか)の特別企画に出場することが決定している。やること全てでちゃんと結果を出しているところが生田のすごいところだ。
今回の「ウィッシュ」の“アーシャ”役もそうだと言える。幼い頃からディズニー作品と楽曲が好きで、その中でも「リトル・マーメイド」(ディズニープラスで配信中)の「パート・オブ・ユア・ワールド」が一番のお気に入り。同曲は2017年8月に放送された音楽番組「FNSうたの夏まつり」でも歌唱している。“マーメイド”風の衣装をまとい、セリフが入るパートも感情豊かに表現して視聴者を驚かせた。そういった“好き”を前面に押し出して、自分の道を切り開いてきた感もある。
「ウィッシュ」公開前には監督・プロデューサー陣が来日し、イベントに出席していたが、その誰もが生田のパフォーマンスを絶賛し、“アーシャそのもの”だと太鼓判を押した。配信で見ていた多くの視聴者も、歌ってくれた彼女に対して「ダンケシェーン(ありがとう)」と言いたくなったに違いない。彼女のディズニー愛も広く知られることになり、2024年4月に東京国際フォーラムで開催される誰もが知っているディズニーの名曲を、ディズニーが大好きなアーティストたちが歌う「フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート2024」への出演も決定している。
生田がこれだけ活躍しているのは、これまでに積み重ねてきた経験によるものだろう。ミュージカル女優になりたいと思った夢もかなえ、ディズニー作品に出たいという夢もかなった。しかもヒロインで。「ウィッシュ」出演がいい経験となり、さらに大きく羽ばたいていく姿が容易に想像できる。今後の活動からも目が離せない。
◆文=田中隆信