アーシャやマグニフィコ王たちのそばにいるよう
ミュージカルの楽曲は、主人公たちの思いを伝え、見る者に感情を呼び起こす。本作では、ジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメスなどに曲を提供してきたジュリア・マイケルズと、レディー・ガガなどの音楽制作に携わるベンジャミン・ライスが音楽を担当。一度聴いただけで歌いたくなったり、余韻を残したりする楽曲を生み出した。そこに4DXの演出が加わることでより深みが出る。
物語が転換する重要なシーン、胸の中に沸き起こった思いを星空に向かって吐露するアーシャによるナンバー「ウィッシュ~この願い~」。亡き父が「夢見ることが大事」と星を見ながら教えてくれたときのことを回想するシーンでは、イスが動いて自分たちも星を見ているような感覚に。サビでは、クルっとアーシャの周りを一周するカメラワークに合わせて座席が円を描くように動き、アーシャを包み込む風がふわりと吹き付ける。この作品を代表する曲のエモさが倍増している感じだ。
そして、アーシャが願いを語り掛けた星空から落ちてきた不思議な力を持つ“スター”のかわいい動きを疑似体験する一方で、マグニフィコ王がナルシストぶりと国を平和に治めたいという正義が誤った方に向かってヴィランに変貌していく姿を表現したナンバー「無礼者たちへ」では、ドンと背後を突かれるエフェクトもあり、ヴィランとなってしまったマグニフィコ王の憎々しさやこれからどうなるのかという不安があおられる。
数々のエフェクトにより、まるで自分が物語の中にいるようだ。
まだある4DX演出の楽しさ
座席の動きだけでも、上下左右のほか、円を描くようにだったり、ジグザグ感があったり、バリエーション豊か。風も、顔に吹き付けたり、横からや足元、はたまた後頭部からで驚かされたり。それらがストーリーに沿っているのだから没入感がずっと続く。
ミュージカルシーンとの相性はばっちりであるが、他のところでも4DXの楽しさがもちろんある。アーシャの親友で、城の厨房で働くダリア(CV:大平あひる)が作ったクッキーが登場するシーン。アニメーションでは食べ物の香りが漂う時に白い煙が流れる描写がよくあるが、何度その匂いが伝わったらいいのにと思ったことか。本作ではそれが実現する。香ばしい香りで鼻を刺激されて、ニヤリとしてしまう。
また、魔法使いといえば、マグニフィコ王が鍋であるものを煮るシーン。鍋から立ちのぼる湯気のように、スクリーン横から白い煙がボワ~っと出てきた。
少々ネタバレが過ぎてしまったかもしれないが、この後向かうクライマックスも4DXのエフェクトが効いて感情が揺り動かされるので、もっと楽しめるはずだ。
自然とアーシャを身近に感じられるようになったからこそ、願うこと、夢見ることの大切さがより心に響いたように思う。同時に、その“願いの力”に加えて、“音楽の力”も存分に響いた。ゆくゆくブルーレイやDVD、配信などで物語を繰り返し見ることはできる。しかし、4DX演出は映画館での上映期間だけ。楽しさ、面白さ、そして感動を“体感”するのは、まさに今だけで、またとない機会だ。
これだけ力説してしまうのは、リポートのための鑑賞後、あまりの楽しさと余韻から、すぐにもう一度仕事関係なく4DX鑑賞体験したから。リピート4DXの経験から申し上げれば、エフェクトに身を委ねることがポイント。物語と音楽に浸り、よりドラマティカルな体験ができることだろう。
最後に、4DX演出はないけれど、エンドロールも最後までしっかりと見てほしい。同時上映のオリジナル短編映画「ワンス・アポン・ア・スタジオ-100年の思い出-」(字幕版はディズニープラスで配信中)からのつながりに、じ~んとする。
◆文=ザテレビジョンシネマ部
Walt Disney Records
発売日: 2023/12/15